みなさんには将来の夢はありますか? 今回は、漫画家になるというこどものころからの夢をかなえて活躍されている、そにしけんじ先生にお話を聞きました。
そにしけんじ先生は、ねこがプロ野球選手になって大活躍する『猫ピッチャ―』(中央公論新社)や、ねこがラグビーをする『ラガーにゃん』(光文社)など、大好きなねこを主人公にした作品をたくさん生み出している人気漫画家。中でも『ねこねこ日本史』(実業之日本社)は、歴史上の人物をねこ化したキャラクターがくり出すねこの習性を楽しく読みながら、日本の歴史も学ぶことができる4コマ漫画で「かわいくて勉強になる」と、小学生からも大人気です。
そにし先生は小学生のころ、漫画が大好きな野球少年で、プロ野球選手か漫画家になることが夢だったそう。そにし先生は、どのように夢をかなえていったのでしょうか。
プロ野球選手にあこがれた小学生のころ
そにし先生は北海道の出身ですが、大学に進学するまでは奈良県で育ちました。「こどものころは、家の周りに自然があふれていたので、友だちと一緒に虫をとったり、魚つりをしたりして、外で遊んでばかりいました」と話します。
そして、家族全員がねこ好きだったので、家に居ついた野良ねこをそのまま飼って、家にはいつもねこがいたそうです。
「ねこをペットショップで買ったことはないんです。今は飼っていないのですが、また出会いがあれば…」と思っているそう。
こどものころからねこが好きだったことが、先生の今の作品づくりにもつながっています。
18年をともに過ごしたねことは、「ふとんで一緒に寝ていました」とそにし先生
「こどものころは、父が漫画や歴史が好きだったので、家にたくさんあった有名な漫画を読んだり、父と一緒に時代劇を見たりしていました。そして母がプロ野球チームの大ファンだったので、野球も大好きでした。そんなこともあって、こどものころは、プロ野球選手か漫画家のどちらかになりたい、と考えていました」
野球選手を目指し、小学校高学年では少年野球チームに入りました。野球漫画の名作『ドカベン』(秋田書店)の主人公にあこがれ、ポジションは同じキャッチャー。ところが中学で野球部に入ると、仲間とのレベルがあまりに違いすぎて、「絶対にプロ野球選手は無理だ」と思ったそうです。
「でも、レギュラーになって試合に出ることがすべてではありませんでした。試合に出られない友人たちと一緒に野球に打ちこみ、ふざけ合うことが楽しかった。プロ野球選手になる夢はかないませんでしたが、それでも中学時代の部活動では、1日も休まずに練習を続けました」と得意げに笑います。 ちょうどこのころ、好きな漫画を学ぶために、雑誌の裏側でたまたま見つけた漫画の通信講座を受講したこともあったそうです。
会社員から、漫画家への道のり
そにし先生は大学生になってから、漫画家をめざそうと真剣に考え、賞に応募したり、自分で描いた作品を出版社に持っていって売り込んだりしたそうです。
ですが、漫画雑誌で連載漫画を担当できるようにならなくては、胸を張って「一人前の漫画家」とは言えないと考えていたため、一度は、会社員として働きました。
「なんとか月刊誌に1本は描くようになってはいましたが、それでは生活していけませんでした。働きながら、家で地道に漫画を描き続けていました」
会社での仕事のかたわら、一生懸命描いた作品を賞に応募しても、出版社に作品を持ち込んでもなかなか認められず、がっかりする日々が続きました。「25歳までにデビューできなくては、漫画家になるのは無理」と言われたこともあったそうです。ですが、そにし先生は30歳を過ぎても漫画家として一流になりたいという夢を追い続け、たくさんの出会いや経験を通して、ようやく34歳にしてヒット作を生み出すことができました。
会社員の時は、苦労や自分の思うようにならないこともあったそうですが、それも今思えば意味のある経験だったと言います。「ぼくが就職したのは印刷会社だったので、1冊の本ができるまでにどれだけ多くの人が関わっているのかということも、会社員をしていたからこそ知ることができました。それは今の漫画家の仕事でも役立っています。初めはやる気がしないことでも、とらえ方によっては楽しくすることができる。いま向き合わなければならないことの中に、将来自分の糧になるものがきっとあります」
漫画家が魅力あるストーリーを描き、読者をひきつけるためには、描き出す世界に「リアルさ」が必要になります。そにし先生は、「漫画家はこれまでに自分が出会った人、やってきた経験、好きなことがすべて生かせる仕事です。本だけで得た知識を描くのと、実際に目で見て経験したことを描くのは大きな違いがあります。すべての人生経験が今、役に立っています」と、話してくれました。
『猫ピッチャー』の漫画を描くそにし先生。アイデアノート(左)にはキャラクターのセリフがびっしり
大好きな「ねこ」を主人公にしたキャラクター開発
そにし先生は、「ほかの作品とはちがう漫画を描きたい」という一心で、これまでさまざまな動物を主人公にした漫画を描いていました。「初めはカメを描きました。それからザリガニ。ねこは好きすぎて、絵にするとリアルになってしまって、なかなか漫画にできなかったんです」
ではそにし先生は、どうして大好きなねこを主人公にした漫画を描くようになったのでしょうか。
🍜『猫ラーメン』
初めてねこを主人公にした漫画は『猫ラーメン』(マッグガーデン)。
©そにしけんじ/マッグガーデン
このキャラクターは、最初はねこではなく、“人間のおじさん”が主人公だったためか、どこの出版社に持ち込んでも興味を持ってもらえなかったと言います。でもそにし先生はそこであきらめませんでした。
「それならばいっそのこと発想を変えて、“主人公をねこ”にしてみようと思い立ちました。姿はねこだけれど、中身は“野望にあふれたおじさん”(笑)。おもしろい化学反応が生まれました」
🐱『ねこねこ日本史』
『ねこねこ日本史』は、もし歴史の登場人物たちが“人間”ではなくて“ねこ”だったら、日本の歴史はどうなっていただろう、というそにし先生のユニークな発想をもとに描かれています。
「本屋さんでは、児童向けの漫画の売り場が小さくなってきました。だから次の作品は児童書コーナーに置けるような漫画を描けないか、と思っていました。いろんな出版社が日本の歴史を漫画で描いた本を出していて歴史漫画はたくさんありますが、全部ねこで歴史を描く人はいません。
はじめは、『卑弥呼』の話を描いていろいろな出版社に持ち込みましたが、全部断られました(笑)。原稿を預けていた知り合いが、ねこと歴史が両方好きな編集者を紹介してくれて、本として出すことができました」
こども向けに漢字にルビがついた「ジュニア版」も©そにしけんじ/実業之日本社
楽しく歴史が学べる『ねこねこ日本史』はこどもだけでなく保護者からも支持され、累計185万部発行の大人気作品です。
『ねこねこ日本史』第一巻より 解説も本格的 ©そにしけんじ/実業之日本社
徳川家康が江戸に幕府を開く前の、天下分け目の「関ヶ原の戦い」をわかりやすく描く ©そにしけんじ/実業之日本社
⚾『猫ピッチャー』
『猫ピッチャー』は、そにし先生が大好きなねこと野球が結びついた作品です。主人公「ミー太郎」は、豪速球を投げるプロ野球のピッチャー。先生は、『猫ラーメン』とちがって、主人公をできるだけ本物のねこに近づけ、もし本物のねこがプロ野球選手になったら…ということを想像してストーリーを考えていると話します。
©そにしけんじ/中央公論新社
「漫画制作では、キャラクターの性格とか個性を作りあげるのが最も大変で、一番頭を悩ませるところです。キャラクターができると、ひとりでに動き出してくれますよ」とにこやか。ミー太郎が試合中に眠ってしまったり、バットでツメをといだり、ねこらしい行動に思わずにやけてしまう展開は、こうして生み出されています。
ねこは日の光で暖かくなると、眠くなる
ねこは決して無理はしない
「今は、『猫ピッチャー』を描く漫画家になり、ある意味でプロ野球選手と漫画家になるという両方の夢がかないました」と、笑顔のそにし先生。「『猫ピッチャー』は新聞掲載の漫画なので、さまざまな年代の、たくさんの人の目にふれます。ギャグによっては傷つく人がいるかもしれない。なので、だれかをけなしたりおとしめたりするようなことがないように気をつけています。どんな人が読んでも、嫌な気持ちにならないようにすることを一番大切にしています」
これが、そにし先生の作品が、多くの人から愛される理由なのかもしれないですね。
©そにしけんじ/中央公論新社
みなさんへのメッセージ
自分の思いを大切にしたことで、漫画家になる夢をかなえたそにし先生。4月から新しいステージにステップアップするみなさんに、メッセージをいただきました。
「将来の夢がある人、自分の好きなことがある人は、その好きなことを続けてください。夢につながるチャンスはいつ転がってくるのかわかりません。『自分が好きだ』と思ったこと、『これこそが“自分らしさ”だ』と思ったら、簡単にあきらめないで、続けることが大切です。
また、やりたいことや夢が見つからない人も、あきらめないでください。何が好きで、何が自分に向いているのか、というのは自分でもなかなかわからないものです。まったく興味がないことでも、やってみるとすごく楽しかった、ということもあるかもしれません。
それに例えば、もし何かに失敗したり、自分に向かないなと思ったとしても、こうした経験は、あとで必ず役に立ちます。落ち込んだあとは少しずつ、前を向きましょう。 ただ『本当に嫌だな』と思ったら、無理をしなくてもいい。大きな壁にぶつかったら、わき道を見つければいいし、違う方法を考えてもいい。逃げてもいい。これでなくてはダメと決めつけず、いろいろやってみると、自分の好きな道が見つかるかもしれません」
すべての経験は未来につながる
もうすでに夢がある人も、そうでない人も、みなさんはこれから、たくさんの出会いや経験を重ね、それはあなたの人生の栄養になっていきます。夢につながる道は一つではありません。みなさんもそにし先生のように、いろいろな方法で、夢につながる道を探してみましょう。