2022年10月号
東京の伝統的な祭り
祭りってなんだろう?
みなさんには、毎年楽しみにしている祭りはありますか?地域の小さい祭りから、京都の祇園祭のように世界的に有名な祭りまで、日本では1年を通して、各地でさまざまな祭りがおこなわれています。わたしたちも家族や友だちと祭りを見に行ったり、参加したりしますね。祭りにかかわる思い出も、たくさんあると思います。
祭りをするためには、多くの時間がかかります。たくさんの人の協力も必要です。どうしてみんなたいへんな思いをして、祭りをするのでしょう。
それは祭りが人びとの心をささえ、地域の人と人とをつなげるものだからです。
祭りは、「まつる」ということばが由来です。「まつる」には、神や仏、先祖などに感謝や祈りをささげるという意味があるといわれています。伝統的な祭りの多くは、豊作や健康、平和、商売繁盛などを願う目的ではじめられました。祭りは不作や病気、死、戦争など、自分の力ではどうにもできないことに苦しむ人の心のささえとなり、生きる希望をあたえてきたのです。
祭りは地域の人びとが集まって協力する機会にもなるので、日ごろから地域で助け合う気持ちが生まれます。また、年上の人から年下の人へ、祭りに必要な技術や芸能>、知識が伝えられることで、地域の伝統が受けつがれてゆきます。
わたしたちのくらしに彩りをあたえ、地域と人、人と人をつないでくれる祭り。そんな祭りのすばらしさについて、東京で受けつがれてきた祭りを通して考えてみましょう。
これってどんな意味? 祭りにかかわる言葉
祭りについて知りたい! その前に、祭りにかかわる基本的な言葉のおさらいをしておきましょう。この他にも、いつもは使うことがない言葉が出てきたら、辞書やインターネットなどで調べてみてくださいね。
・神社
神道の施設。神の住まいとされ、宮司などの神職が管理や儀式をする。まつられている神や、稲の収穫などにかかわる祭りが開かれる。
・寺(寺院)
仏教施設。仏の像をまつり、僧や尼たちが修行や儀式をする。仏教をひらいたシャカや、寺にまつられている仏にかかわる祭りなどが開かれる。
・神輿
形やかざりは神社ににせてつくられ、屋根の上に鳳凰(幸運をもたらす伝説上の鳥)のかざりをつけているものが多い。祭りで神輿をかついでまちをねり歩くのは、地域のようすを神に見てもらったり、わざわいをはらってもらったりするためといわれている。
・山車
引いたり、かついだりして運ぶ屋台。花や人形、ちょうちんなどではなやかにかざりつけられる。人が乗って、おどりや楽器の演奏などをするのは、神をもてなすためとされる。地域によって、だんじり、山鉾、曳山などともよばれる。
・祭囃子
祭りのときに演奏される音楽。太鼓や笛、鉦などの楽器が使われる。祭囃子を演奏する人びとを「お囃子」とよぶ。
・氏子
祭りに参加するなどのかたちで神社をささえる人たち。
大迫力!東京を代表する浅草の祭り・三社祭
東京都では、各地で個性ゆたかな祭りが受けつがれてきました。そのひとつが台東区にある浅草神社の祭り、三社祭です。
三社祭が開かれる浅草は、江戸時代に浅草寺の門前町として発展したまちです。門前には仲見世とよばれる商店街があり、東京を代表する観光地として知られています。浅草神社は、浅草寺にまつられている観音像を見つけた漁師の檜前兄弟と、浅草寺をおこした土師真中知の3人をまつる神社です。3人は「三社権現」とよばれ、三社祭の名前の由来となっています。
祭りは毎年5月の第三土曜日を中心とした金、土、日曜日に開催されます。1日目は、お囃子が乗った屋台や踊り手が参加する「大行列」があるほか、東京都の無形文化財に指定されている「神事びんざさら舞」という伝統芸能がひろうされます。この舞は、豊作や、わざわいをはらうことを願って神にささげるものとされています。
2日目には祭りの式典があります。その後、氏子がくらす44の町から約100基の神輿が浅草神社の境内に集まり、1基ずつおはらいを受けてから氏子たちにかつがれ、各町をめぐります。
最終日の3日目は、三社権現の本社神輿3基が神社の境内からかつぎだされます。1基につき数百人ものかつぎ手が集まり、威勢のいいかけ声とともに、神輿をあらあらしくゆさぶりながら、1日かけて浅草の町をねり歩きます。
感染症に負けない! 3年ぶりにかつがれた本社神輿
浅草にくらす人たちは、毎年三社祭を楽しみにしています。太平洋戦争(1941~45年)のときには浅草のまちが焼け野原となり、神輿もすべて焼けてしまいましたが、戦後、すぐに祭りを再開し、神輿も新しくつくり直しました。
しかし、新型コロナウイルス感染症が広がった2020年と2021年には、人が集まらないよう、神輿はかつがれませんでした。祭りを経験できない子どもが増えるなど、祭りの伝統がとだえてしまうことが心配されました。
そのようななか、今年は3年ぶりに氏子たちによって本社神輿がかつがれ、「子供神輿」を出した町もありました。浅草寿町1丁目町会の大熊俊夫会長は、「今年は『わっしょい!』と心一つにして神輿をかつぐ子どもたちの姿を見ることができ、とても幸せでした。来年はより多くの人に参加してもらい、祭りの伝統を若い世代につないでいきたいです」と話しました。
三社祭に参加した、小学3年生の安藤慎之介さんにインタビュー!
三社祭では、どんなことをしましたか?
子供神輿をかつぎました。三社祭にはおじいちゃんもお母さんも参加していたので、ぼくも小さいころから毎年参加してきました。今年は3年ぶりに子供神輿をかつげてうれしかったです。
三社祭に参加して、楽しかったことやたいへんだったことを教えてください。
みんなで力をあわせて神輿をかつぐのが、いちばん楽しいです。神輿をゆらすと、神輿についているすずが鳴って、とってもいい音がするんです。まつりのときは、まちに屋台が出るので、わたがしを買って食べるのも楽しみです。
神輿は重いので、数十分もかつぐのはたいへんです。人がたくさんいるなかでかつぐので、ぶつからないよう気をつけています。かつぎかたも自分なりに工夫していて、今年はじめて神輿をかついだ妹にも、こつを教えてあげました。
三社祭の開かれる浅草は、安藤さんにとってどんな場所ですか?
浅草寺や浅草神社のあたりは、散歩で行くくらい身近な場所です。浅草神社で開かれる「浅草灯籠祭」には、小学校の夏休みの宿題でかいた絵を使った灯ろうがかざられるので、毎年みんなで見に行きます。三社祭で本社神輿の通り道になる、浅草寺の仲見世にもよく行きます。仲見世で売られている人形焼きなど、おいしいものがいっぱいある浅草が大好きです。
来年の三社祭にも参加したいですか?
来年も参加して、子供神輿をかつぎたいです。大きくなったら、本社神輿をかついでみたいです!
東京都には他にどんな祭りがあるの?
三社祭のほかにも、東京にはさまざまな祭りがあります。たとえば、江戸時代に幕府の将軍も見物したことから「天下祭り」とよばれていた、神田祭と山王祭です。この2つの祭りは、2年に1度、交互に本祭が開催されます。
神田祭は、5月中旬に千代田区の神田明神で開かれます。もとは秋に収穫を祝う祭りでした。「神輿宮入」の日には、氏子たちがかつぐ大小200基もの神輿がまちをめぐり、次つぎに神田明神にお参りします。
山王祭は、6月に千代田区の日枝神社で開かれる祭りです。日枝神社は江戸時代には山王権現とよばれ、江戸城の守り神でした。祭りの中心となる「神幸祭」では、神輿や山車とともに伝統的な衣装を着た人びとが皇居周辺や丸の内、銀座などをめぐります。
また、多摩地区を代表する祭りとして有名なのが、くらやみ祭です。府中市の大國魂神社で毎年4月30日~5月6日に開かれる祭りで、1000年以上の歴史をもつとされます。多くの山車や神輿がまちをめぐるほか、「競馬式」という馬を走らせる儀式や、大太鼓の演奏などがひろうされます。
未来の祭りをささえるのは……わたしたち!
祭りは人びとの心をゆたかにし、地域の人と人とをつないできました。それは、昭和時代や平成時代に町おこしとしてはじまった祭りでも同じです。豊作を願って田植えなどのしぐさをする田遊びや、伝統的な舞を演じる神楽など、各地域で受けつがれている伝統芸能でも、そうですね。
しかし、いまでは伝統を受け継ぐ若者や子どもが少なくなり、祭りに必要なお金や、神輿をかつぐ人、囃子を演奏する人などを集めることができない地域も増えています。儀式の一部をとりやめたり、他の地域から人をよんだりして祭りを続けている地域もあります。
みなさんの住む地域には、どんな祭りがありますか。よく知らないという人は、地域の祭りや伝統的な行事を調べることからはじめましょう。歴史や伝統ににこめられた願いを知ったら、きっと実際に見てみたくなるはずです。「自分も参加したい!」と思った人は、祭りや行事のホームページから申し込んだり、実行委員会に連絡したりしてみましょう。伝統を未来に引き継いでいくのは、みなさんです!
TOKYOものしり辞典
縁日ってなに?
祭りのほかにも、地域にはさまざまな行事がありますね。どの行事も、人びとが願いをたくしたり、地域の人と交流を深めたりする機会になっています。
縁日は、ある神や仏とのつながり(縁)が深い日のことです。この日に神社や寺にお参り利益がある、とされています。人が多く集まることから、ものを売る市がたつようになりました。
とくに有名な市に、毎年7月9・10日に開かれる浅草寺のほおずき市(台東区)があります。
この2日は浅草寺がまつる観音の縁日で、お参りすれば4万6000日お参りするのと同じ効果がある、とされています。江戸時代に病気にきくとされたほおずきを売る市がたつようになり、今ではたくさんの露店がならびます。
東京では、他にも台東区にある鷲神社の酉の市、調布市にある深大寺のだるま市など、長い歴史をもつ市が数多く受けつがれています。これらの市や、身近な地域の市の由来について、調べてみましょう。地域の歴史や、昔の人びとの願いを知ることができるかもしれませんよ。