2023年7月号
水族館で海の生き物の「生きるための工夫」を観察しよう
水族館には不思議がいっぱい。JR京葉線葛西臨海公園駅すぐ近くにある葛西臨海水族園では、600種類を超える生き物と出会うことができます。世界の海、東京の海や川、深海や極地に棲息する多種多様な生き物のほか、4種約200羽のペンギンを飼育している国内最大級の展示場で、空を飛ぶように水中を泳ぐペンギンたちの姿などを目の前でじっくり観察してみましょう。なかでも最も圧倒されるのは、大水槽で見られるクロマグロの群泳です。
クロマグロの「秘密のヒレ」はどうして隠れているの?
お寿司屋さんで人気のマグロですが、皆さんは泳いでいる姿を見たことがありますか? ここ葛西臨海水族園では、約80尾ものクロマグロの群れが泳いでいる姿をすぐ近くで見ることができます。クロマグロをよく見ると、まるで大きなラグビーボールのような形をしていることが分かります。この形は、水の抵抗を受けにくく、泳ぎ続けるのに適した形です。
1尾のクロマグロをじっくり観察してみましょう。すると、まっすぐ泳いでいるときには見えない「秘密のヒレ」が、方向転換するときに背中とおなかからシュッと出てきます。なぜこんな仕組みになっているのでしょうか?
それは、ブレーキをかけたり、バランスをとったりするため。クロマグロは海ではふだん時速4~5kmくらいで泳いでいますが、サメなどの敵から逃げるときや、獲物を追いかけるときには時速80kmくらいで泳ぐこともあります。高速道路を走る車と同じくらいの速さですね。クロマグロは「回遊魚」と呼ばれており、寝ているときもずっと泳ぎ続けます。そのため、方向転換など泳ぐスピードをゆるめる必要があるときだけ、体にしまっている「秘密のヒレ」を出すのです。
海の生き物それぞれの「生きるための工夫」を観察しよう
❖クロマグロの背中とおなかの色が違うわけ
クロマグロを実際に見ると、とくにおなかがまるで金属のようにピカピカとしています。海中で下から見上げると、水面が太陽の光でキラキラしているため、クロマグロがいても分かりにくいようになっているのです。逆に、背中は暗い色になっています。これは空から海を見ると、クロマグロの色と海面の色の区別がつきにくくなるためです。クロマグロと同じように、背中が暗い色をしている魚はほかにもたくさんいますので、探してみましょう。
❖深い海に赤い魚が多いわけ
深い海には暗いところで見えにくい黒い魚がたくさんいます。ところが、よく見ると赤い色の魚も多いことに気づきます。これはなぜでしょうか。スタッフの田中隼人さんは「深い海では、赤い色は見えにくくなるんです。普通に見るととても目立つように感じますが、青いセロハンを通して見ると、赤い色が見えないことがすぐに分かります」と教えてくれました。体の色が、敵から身を守るのに役立っているのです。
❖キンギョハナダイが最初は“みんなメス”なわけ
世界の海エリアの「紅海」水槽にいるキンギョハナダイを見てみましょう。ほとんどの個体がオレンジ色をしていますが、よく見るとピンク色の個体も少しだけいます。オレンジ色がメスで、ピンク色がオスです。この魚は、生まれると約1年でメスとして成長し、群れの中にオスがいなくなったり、個体数が増えたりすると、体の一番大きなメスがオスに性転換するのです。どうしてこんな風になっているのでしょうか?
それは、確実に自分の子孫を多く残すことができるというメリットがあるからです。体が小さいときはメスとして産卵して自分の子孫を確実に残し、成長してまわりのオスに負けないようになったらオスに性転換し、多くのメスとのあいだに自分の子孫を残すというキンギョハナダイの繁殖戦略なのです。
❖こんなところにも注目
まるで岩そっくりでみつけにくいオニダルマオコゼなどの「身を守る」仕組み。食べ物によって口の形がそれぞれ違う「食べる」の不思議など、たくさんの不思議に出会うのも水族館の楽しみの一つです。
葛西臨海水族園では、ふだんは見ることができない場所を見られる「水槽の裏側ツアー」や、スタッフが決まった時間にさまざまなテーマで解説してくれるプログラムもあるので、自由研究のヒントをさがしに、ぜひ参加してみてください。 水族館ではどれか一つの生き物の生態を観察したり、温かい海と冷たい海、浅瀬と深海の違いを比べたり。いろいろな観察のしかたを試してみて、気になる生き物の不思議を解き明かしてみましょう。
コラム:大水槽の厚さはどれくらい?
水族館で生き物を飼育するためには、大量の海水が必要です。葛西臨海水族園の場合、海のすぐ近くなので、海水には困らないと思うかもしれません。でも実は、水族園のそばには荒川と旧江戸川が流れ込んでいて、近くの海水は「汽水(きすい)」といって真水に近いため、八丈島沖の海水を使っています。
園内最大のクロマグロの水槽の水量は2200トン。どんな量か想像もつきませんね。「4人家族が使う水の量にたとえると、約7年半分にあたります」と田中さんが教えてくれました。水槽の材料はガラスではなく、アクリルガラス。新型コロナの感染拡大時に飲食店などで席を分けるためによく使われていた、透明な樹脂製の板です。ガラスのように透明度が高く、強度がとても強くて大きな水圧がかかっても割れにくいため、水族館の水槽で使われています。そして大水槽のアクリル板の厚さはなんと26センチ。5枚の板を合わせて作られています。こうした水族館の設備の不思議について調べてみるのも面白いですね。
取材協力:葛西臨海水族園
写真提供:(公財)東京動物園協会