2023年10月号
台風の目の中はどうなっている? “台風の不思議”を徹底検証!
秋は台風シーズン。みなさんは、台風の正体を知っていますか? 「台風」がやってくると、激しい雨や風で大きな被害が出ることがあります。どうして日本に来ることが多いの? 「台風の目」はどうなっているの? 知っているようで知らなかった台風の疑問を、台風研究のスペシャリスト、気象研究所の和田章義先生にうかがいました。
台風の“もと”はこうしてできる
―台風は、どのようにしてできるのですか?
台風は、赤道から離れた暖かい海の上で多く発生します。赤道の近くは一年中、夏のように気温が高い所です。空気は暖まると高いところに上がっていく性質があります。みなさんは「熱気球」を見たことがありますか? 巨大な風船の中の空気を火で暖めると、空に浮かびます。それと同じで、まわりよりも温かい空気は上に上がっていくのです。
このときの空気の流れを「上昇気流」と言います。赤道付近の海は水温が高く、そこから生まれた水蒸気は上昇気流に乗って、どんどん空へ上がっていきます。空に上がっていくと、まわりの空気に冷やされて水蒸気は雲にかわり、上昇気流を伴った積乱雲という雲が生まれます。夏の空で、もくもくともり上がるように大きくなった「入道雲」と同じものです。
積乱雲がたくさん集まると、積乱雲のまわりの空気は、日本がある北半球では反時計回りに動くようになり、大きいうずが作られていきます。上へ上へとのぼる上昇気流は暖かい空気をうずの中心につくるので、うずの中心付近の空気が軽くなり、低気圧が強くなっていきます。これが後に台風になるのです。
低気圧、高気圧という言葉をテレビなどで聞くことがあると思います。この気圧というのは空気の力です。空気が重いと気圧が高くなり、空気が軽いと気圧は低くなります。地球上の大気の中には、気圧が高い所や低い所がたくさんあって、それによって天気に影響が出てきます。赤道付近の、高温で雨の多い地域(熱帯)で生まれた低気圧が「熱帯低気圧」で、そのうち、1秒あたり17メートルをこえる強い風が吹いているものを、「台風」と呼んでいます。
日本に上陸することが多いのはなぜ?
―どうして日本に台風が来ることが多いのですか?
夏から秋にかけて、日本の東側の太平洋は、「太平洋高気圧」という高気圧におおわれることが多くなります。もともと低気圧である台風にとって、高気圧は壁のようなもので、ぶつかるとそれ以上進めません。よって、台風は太平洋高気圧の外側をまわるように動くことになります。
また地球上で日本をふくむいくつかの地域には、西から東に空気が流れる「偏西風」という風が吹いています。太平洋高気圧のまわりをそうように移動してきた台風は、今度は偏西風の影響でさらに東へと進路を変えることが多くなります。この、ブーメランのようにぐるっとまわる道筋に、ちょうど日本があることが多いのです。ただ、偏西風はときどき曲がったり、季節によって北や南に位置が変わるので、それによって台風の動きも変わってきます。
台風の目の中は…風もなくて青空?!
―「台風の目」の中はどうなっていますか?
台風の目というのは、台風が作る雲のうず巻きの中心部で、あまり雲がないところです。台風の目のまわりは厚い雲の壁に囲まれています。空気がまわりをうず巻きながら上に上がっていますが、実はこの目の中心部はほとんど風が吹いていません。
普通の台風で直径40キロメートルくらい、大きい台風では直径100キロメートルになることもありますが、目の中に入ってしまうと 真上に雲がなく、風もないので、晴れて穏やかな青空が広がっています。これは、信じられないような本当の話です。
知っているようで知らない台風の豆知識
―台風の名前はどうやって決めていますか?
日本では台風のことを「第○号」と数字で呼びます。この数字は、毎年1月1日以後、もっとも早く生まれた台風を「第1号」とし、それから発生順に番号をつけています。また、台風には、平成12年(2000年)から、日本を含む14か国が加盟する「台風委員会」で、共通するアジア名をつけることになりました。各国がそれぞれ10個ずつ提案し、計140個の名前が決められた順番でつけられることになっています。
平成12年の台風第1号には、カンボジアで「象」を意味する「ダムレイ」というアジア名がつけられました。日本からは、星座名から「コイヌ」「ヤギ」「ウサギ」「カジキ」「コト」などを名前の候補としています。星座は台風と同じ空にあり、私たちに親しまれていることが使われることになった理由です。
―台風は地球のほかの地域でもあるのですか?
「台風」や「タイフーン」は、北西太平洋、南シナ海での名前です。台風と同じ現象は、別な場所でも起きていて、北大西洋やカリブ海、メキシコ湾、北太平洋東部の主にアメリカやメキシコを含む地域では「ハリケーン」、北インド洋のインド、バングラデシュ、赤道より南側の太平洋のインドネシア、オーストラリアなどの地域では「サイクロン」と呼ばれます。
赤道の北側では、うずの巻き方が時計の針の動きとは逆の「反時計回り」なのに対して、南側の南半球では時計と同じ「時計回り」です。これには、地球が一日に一度ひと回りする“自転”が関係しています。
台風の不思議に少し近づけましたか? 台風に限らず、晴天が続いたり雨が続いたり、カミナリが鳴ったり強風が吹いたり…私たちの生活に影響をあたえる天気は、遠く離れた場所の海水面の温度や、そのときの地球上の気象条件がさまざまに影響しあって変化します。みなさんも空を見上げて、今日の天気がどうやってもたらされているのか、想像してみるとおもしろいかもしれません。
取材協力・監修:気象庁気象研究所 台風・災害気象研究部第一研究室室長 和田章義先生