2023年11月号
東京の笑いの聖地・浅草の「寄席」に行こう!
みなさんは、「落語」を実際に見たことがありますか。落語は、着物を着た落語家さんが、一人で何役も語り分け、面白おかしい物語を語る日本の伝統芸の一つです。落語を知らなくても、テレビ番組「笑点」の大喜利なら知っているかもしれません。あの人たちも、実は落語家。たった一人で「高座」といわれる舞台の上の座布団に座り、「落語」を話すのが仕事です。落語をはじめ、漫才や曲芸など観客を前に演芸が演じられる劇場のことを「寄席」と言います。東京を代表する寄席の一つが、浅草にある「浅草演芸ホール」です。
町とともに芸能が育ってきた浅草
浅草は名所・浅草寺の「門前町」といわれる商店街からはじまり、庶民の生活に寄り添う下町として多くの人が集まりました。今から約400年前の江戸時代に当時のお金であった米を管理する蔵(米蔵)ができると、さらににぎわいました。人々が仕事から離れて楽しむ舞台として芝居小屋ができ、浅草は文化芸能の中心地となりました。
日本を代表する伝統芸能「歌舞伎」も実は浅草とともに育ちました。芝居だけでなく、見世物小屋や大道芸など人々の楽しみが集まっていた娯楽の町・浅草。そこはもしかするとテレビのない時代の人たちにとって、今の原宿や渋谷のようなわくわくする世界だったのかもしれません。
江戸時代が終わり明治時代に入ってからも、日本で最初の映画館ができるなど、浅草は最先端のエンターテインメントの町として発展しました。有名な俳優やコメディアンも浅草からたくさんうまれています。映画「男はつらいよ」シリーズの寅さんを演じた渥美清さんや、日本を代表するコメディアンの一人である萩本欽一さん、そして“お笑い界の巨匠”で、映画監督としても世界的に有名なビートたけし(北野武)さんらが、この浅草で修業し、スターになっていきました。
東京の笑いの聖地・浅草を次の世代へ
浅草演芸ホールの運営をする東洋興業の社長、松倉由幸さんは「浅草は、明日のスターを目指す若手芸人にとって聖地のようなところです」と話します。今もときどき、『たけしさんが若い頃エレベーターボーイをしていたエレベーターはどこですか』とか、『たけしさんを感じられるところで働きたいので雇ってほしい』などと訪ねてくる若い人が絶えないといいます。
松倉さんのような寄席の経営者を「席亭」といいます。席亭は出演者や関係者と話し合い、舞台の内容を決めています。松倉さんは、落語が中心の「浅草演芸ホール」、漫才が中心の「東洋館」という二つの劇場を運営していて、落語や漫才のほか、コント、漫談、マジック、曲芸、ものまね、紙切りなどさまざまな伝統芸を上演しています。
「小学生のみなさんにとっては、テレビで気軽に見られるお笑いと違って、落語は少し難しそう、と思うかもしれません。そこで、台東区の教育委員会と協力して、小学校単位で劇場に来てもらい、落語ってこういうものですよ、と体験してもらう試みもやっています」と松倉さん。
マンガやアニメなどで落語を知ったという若い人も増えているそう。特に浅草は観光名所のため、「初めて落語を見る」という人も多いので、幅広い年齢層が楽しめるように二人でかけあう漫才やコントを組み込むなど、番組構成を考えるのも席亭の大事な仕事のひとつと話します。「寄席は決して大人だけの場所ではなく、おじいちゃん、おばあちゃんから孫まで、みなで笑って楽しめる所です。うちの場合、どこから見て、どこで帰っても自由。みなさんもぜひお父さんやお母さんと一緒に遊びに来てください」と言います。
松倉さんは「漫才のホームグラウンドである東洋館にはナイツやU字工事といったテレビでもおなじみの人気者たちも出演しています。『浅草芸人』と呼ばれる人たちがこれからも絶えることなく続いてほしい。浅草を背負うような芸人、次のスターをこの舞台から作っていきたいというのが私の希望です」と話しています。
落語家インタビュー!
「特別なエネルギーに満ちた浅草演芸ホール」
落語家の古今亭文菊さんも、この浅草演芸ホールにたびたび出演しています。高校生のころ、師匠である古今亭圓菊さんの落語をテレビでたまたま見て、強い印象に残っていたことが大人になってから落語家を目指そうと思ったきっかけとなったと話します。
「東京の寄席には、浅草演芸ホールのほか、新宿末広亭、上野鈴本演芸場、池袋演芸場などがあります。それぞれに特徴がありますが、なかでも浅草は全国からいろいろなお客さまがいらっしゃいます。芸能の伝統が脈々と受け継がれ、人の心を動かそうとする特別なエネルギーがこの浅草にはあります」と文菊さん。
「落語は言葉の芸です。話を聞いているうちに心の中に映像が浮かんで、話の中の登場人物が生き生きと動き出します。自分の中に自分で世界を作り、物語に共感するのが落語の楽しみだと思います。笑いの感覚は人それぞれ。寄席は出入りが自由なので、好きな落語とぜひ出会ってください」と、楽しみ方について話してくれました。
浅草には日本最古の遊園地である「浅草花やしき」、日本の代表的なお祭りのひとつである「三社祭」、日本最古の花火大会である隅田川花火大会など、江戸文化を色濃く現代に受け継ぐ見どころがたくさんあります。浅草に行ったら、浅草生まれの日本の話芸、寄席を楽しんでみてはいかがでしょうか。
住所:東京都台東区浅草1丁目43番12号
公演:年中無休
昼の部(午前11時40分~午後4時30分)、夜の部(午後4時40分~午後8時50分)合わせて、落語や漫才、マジック、漫談など40組が入れ替わり立ち替わり出演します。