2023年12月号
“心のバリアフリー”でだれもが支えあう社会へ
「バリア」とは“壁”のこと。みなさんがよく耳にする「バリアフリー」とは、そうした壁を取りはらって誰もが生活しやすくすることを意味しています。バリアには建物や乗り物の段差などの「目に見えるバリア」のほかに、ある一部の人に不便さや困難さを生んでしまう「目に見えないバリア」があることを知っていますか? “心のバリア(壁)”を取りはらう理解や行動をすることを“心のバリアフリー”といいます。あなたのまわりで、誰かが何かに困っていませんか? 心のバリアフリーは、まずは自分のまわりで起きていることに興味を持ち、誰かの困りごとや痛みに「気づくこと」からはじまります。
“心のバリア(壁)”はどこにある?
さて、このイラストを見てあなたはどのようなことに気づきますか?
◇電車の中で
電車の中で小さな子どもを連れた人、妊娠している女性や足の不自由な人が立っていることがあります。これをみて、みなさんが気づくことはありますか?
◇エレベーター乗り場で
エレベーターに乗ろうと何人かが待っているとき、その中に、車いすを使っている人や赤ちゃんを乗せたベビーカーを押している人がいます。ほかに階段やエスカレーターがあるかもしれません。このシーンでも、みなさんがなにか気づくことはありますか?
「大変そうだな」と席をゆずったり、「エレベーターに乗れないと移動できない人たちだ」と先に通ってもらおうと思ったりしてもどうしたらいいかわからず、なかなか行動に移せないこともあるでしょう。まずはこうした状況に心の引っかかりを感じることが、“心のバリアフリー”に近づく第一歩です。
つづいてこちら。こんな場面に出会ったらあなたはどう思いますか?
◇まちの中で
歩行者用の道路に点字ブロックがあります。点字ブロックは、視覚に障害のある人が、つえなどを使って道を知るために必要なものです。この上に自転車が止まっています。この点字ブロックを頼りに歩く人が来たら、どんなことが起こるでしょうか。
◇学校で
教室で、字を読むこと、計算をすることが得意ではない友達がからかわれています。この友だちはどんな気持ちになるでしょう。かたづけ、歌、工作、運動…苦手はだれにでもあるものです。苦手を笑われる人は一体どんな気持ちになるでしょうか。自分に置きかえて考えてみましょう。
◇お店や施設で
車いすを使っている人が、開き戸を開けようとしています。車いすが家具や扉にぶつかり、開けにくそうにしています。たとえばあなたが両手に荷物をたくさん抱えていたり、けがをして松葉杖をついていたとしましょう。そんなとき、どうしてもらえると助かると思いますか?
◇横断歩道で
足が不自由そうなお年寄りが道路を渡っています。青信号がちかちかしていて、もうすぐ赤に変わってしまいそうです。昼間だから車にも見えているだろうし、まわりに大人もいるから、「自分が声をかけなくてもいいかもしれない」と思うかもしれません。
“心のバリアフリー”に向かっていくためにできること
さて、6つのイラストを見て、あなたはどんなことに気づきましたか? 障害のある人もない人も、だれもが住みやすい街作りなどを研究している、東洋大学名誉教授の髙橋儀平先生に“心のバリアフリー”に向かっていくためにできることを聞きました。
▶アクション❶ 自分に何ができるのか想像してみよう
髙橋先生は、「目に見えるバリアも、目に見えないバリアも、バリアを取りはらうのに大切なのは“想像する力”」と話します。いくつかのシーンを見てもらいましたが、あなたがそこで何が起きているのかに気づき、自分に何ができるか、を考えることが想像力です。 「初めは行動にうつせなくても、『今後もし同じような場面にであったときにどうするのがよいのか』と考えることが、心のバリアフリーにつながります」と話します。
▶アクション❷ 恥ずかしがらずに声をかけてみよう
髙橋先生は「手助けして良いかどうかは、見た目だけではわからないものです。もし迷ったら、まず声をかけてみましょう」と話します。「最初は恥ずかしい気持ちや照れくさい気持ちがあるかもしれませんが、思いきってやってみることが大切です。もしかすると、『ありがとう、大丈夫です』と言われることがあるかもしれません。でもまず“声をかけた”というその経験が大切です。もしその時、家族や学校の先生など周りに大人がいれば、相談してみるのもよいでしょう」とアドバイスをくれました。
一歩踏み出す勇気を持とう
東京都が令和3(2021)年度に行った調査によると、「困っている人を見かけたときに何もしなかった理由」について聞いてみると、一番多かったのが「手助けをしていいものかどうかわからなかった」、そして「忙しかった、急いでいた」「照れや恥ずかしい気持ちがあった」とつづきます。
あなたが誰かの困りごとや痛みに気づいたら、それはすばらしい第一歩。恥ずかしい、などの気持ちがあってその時はできなくても、次にそういう機会があったらどうか勇気を出して、「お手伝いできることはありますか?」と声をかけてみてもいいかもしれません。その経験は声をかけてもらった人、また、あなた自身の心の栄養になります。一人ひとりが勇気を出し、少しずつ“心のバリア”を取りはらっていくことで、みんなで支えあう、やさしい社会をつくっていきましょう。
❖ヘルプマークを知っていますか?
外見からは分からなくても助けや気づかいを必要としている人が、手助けしてもらいやすくするマークです。ヘルプマークを身に着けた人が困っていることに気づいたら、思いやりのある行動をとるようにしましょう。
取材協力・監修:東洋大学名誉教授 髙橋儀平先生 / 東京都福祉局