2024年3月号
リーチマイケル選手 スペシャルインタビュー
「夢への道は“あきらめない心”」
みなさんは大人になったら何をしたいと思っていますか? 「プロのサッカー選手になりたい」とか、「お医者さんになりたい」とか、なかには「ユーチューバ-になりたい」という人もいるかもしれません。どうしたら夢を見つけ、そして夢に近づき、その夢をかなえることができるのでしょうか。
5歳の時に決めた「プロのラグビー選手になる」という夢をかなえ、ラグビー日本代表のキャプテンとして活躍したリーチマイケル選手に、夢をかなえるために大切なことについて聞いてみました。リーチ選手は、「自分の夢に責任を持つこと」そして「仲間を大切にすること」と話してくれました。
幼い頃に見つけた夢。でも、皆にはヒミツ
リーチ選手はニュージーランド出身で、高校生のときに日本に留学してきました。ニュージーランドではラグビーは最大の人気スポーツで、リーチ選手もラグビー選手にあこがれ、5歳でラグビーチームに入りました。小学生の頃から「将来はプロのラグビー選手になる」と心に決めていましたが、ラグビーの本場ニュージーランドでプロ選手になることは、体格に恵まれていても簡単なことではなかったため、家族にはそれを伝えなかったそうです。
「体の細かったわたしは、両親には『そんなの無理だよ』と言われてしまうと思い、『将来は医者になりたい』とウソをついていました。わたしが日本でプロ選手になって初めて、両親はわたしがラグビー選手になりたがっていたことを知ったんじゃないかな」と笑うリーチ選手。「夢を叶えるためには、周りの人に話した方がいいという考え方もありますが、わたしのように自分の中で大切に守るのもいいと思いますよ」と言います。
優秀なラグビー選手を応援する「奨学生」(授業料や生活費の援助を受ける学生)として日本にやってきたリーチ選手は、北海道札幌市の高校に入りました。札幌市は自然が多く、街や道路もきれいに整備されていて、「ニュージーランドに似ている」と感じたそうです。
当時よく食べたのはハンバーグ。体を大きくするために行きつけのレストランに毎日のように通い、400gのハンバーグをがんばって2つ食べていたそう! 高校1年生のときは体重78kg、身長178cmとやせていたリーチ選手でしたが、部活動で厳しい練習をしていくうちにどんどん体格がよくなり、3年生のときには体重100 kg、身長186 cmにまで成長しました。
「高校でラグビーを教えてくれた先生は、まだ体も小さくて技術もなかったわたしにいつも『お前はいつか日本代表のキャプテンになるぞ。そして強豪の社会人チームで大活躍するんだ』と言い聞かせてくれました」と先生からの言葉が励みになったと言います。先生は、リーチ選手の能力の高さやひたむきに努力する姿を見て、将来の活躍を確信していたのでしょう。いまでもその先生とは連絡を取り合っているそうです。
つらいときこそ、冷静に、ポジティブに
どんなことも「自分の責任だ」と考える性格のリーチ選手。「高校生のころから、チームの勝敗に対する責任を強く感じていました。だから、チームを勝利に導くために、練習に一層打ち込めるようになりましたが、その一方で、チームが負けたときには『自分のせいだ』と感じてひどく落ち込むようになってしまいました」と話します。試合で思うような結果が出ず、周囲からの期待に応えられなかったと感じるときはつらくて仕方なかったそうで、このつらさは大学生になっても、プロのラグビー選手として大活躍するようになってもなくならず、数年前には引退を考えるほどだったといいます。
「努力したのに思うような結果が出なかった」「競争の場で負けてしまった」。そんなときは、誰しも悲しい気持ちになるし、自分を責めてしまうものです。今のリーチ選手は、落ち込むことがあったときについて、こう話してくれました。「負けて悔しいとき、自分の中に思い浮かぶ言い訳に、正直に向き合うようにしています。そして、次は同じ言い訳をしないように、筋力や体力について具体的な目標を立てて、それを達成できるような練習のプランを作り直すのです」
そして、気持ちの面で大切にしているのは、そのままの自分を受け入れ、認めること。 「今は、毎日自分のいいところを褒めるようにしています。その日の練習でいいタックルが一回できたとか、パスを取れたとか、どんな小さなことでもいい。毎日すべてが完璧にできる人なんていないから、日々自分を認めてあげるようにしているんです」
夢をかなえるカギは、“夢を軸に”
「自分の夢をすでに見つけている人は、全力で追いかけて! そして、まだ夢を持っていない子は、自分ができることや大好きなことについて考えてみてください。家族の手伝いで料理をしたら楽しかったとか、ユーチューバ-に憧れて自分でもカメラを回したらおもしろかったとか、夢を見つけるきっかけはどんな小さなことでもいい。いろいろやってみて、「好き」や「得意」を見つけて、それを軸に夢に広げていけばいいんじゃないかな。夢を持っていれば、努力の方向性も決まります。例えば、これから中学校や高校、大学へと進学していく際にも、興味のあることをたくさん勉強できる学校を選べます。つまり、夢を早く見つければ、夢の実現に早く近づけるのです」とリーチ選手は話します。
リーチ選手からのメッセージ
4月に新しいステージを控えたみなさんに、リーチ選手からメッセージをもらいました。
「わたしは、夢をかなえるために大切なことが2つあると思っています。
1つ目は、自分の夢に責任を持つこと。『自分の目標が達成できるかどうかは、100%自分しだいだ』と考えるのです。夢をかなえるためにやるべきことを決め、自分の努力で夢が近づけば楽しいし、もし思うように進まなくても、そこで夢のためにがんばろうと試行錯誤することが自分の糧になります。
そして2つ目は、仲間を大切にすることです。学校で出会った友人や同じ夢を目指してチームを組む人たちの中で、よい仲間と出会ったら、その人たちを大切にしてください。同時に、自分もいい仲間であろうと心がけてください。ラグビーはチームワークがとても大切なスポーツですが、わたしは何をする時も仲間とのつながりが一番大切だと思います。
そしてもし、夢をかなえるのに必要なことのなかに、苦手なことが含まれていたら、自分一人で思い悩む必要はありません。友達や、わたしの高校の時に出会った先生のような、信頼できる周囲の大人に相談してみるのもいいですよ。なにか気づきがもらえるかもしれません」
みなさんは、もうすでに夢を見つけている人ばかりではないはず。そしていま、なんとなく夢を持っている人も、これからいろいろなことに出会って、夢が変わっていくかもしれません。でも、みなさんにはたくさんの可能性があり、いつ準備を始めても遅くありません。次の夢は「ラグビー日本代表を世界一にすること」と話すリーチ選手。みなさんもまずは好きを極めることを大切に、自分だけの世界を見つけ、ぜひその夢に向かって進んでいってください。
リーチ マイケル ラグビー日本代表
(ラグビーワールドカップ2011・2015・2019・2023出場)
ニュージーランド出身。ニュージーランド人の父とフィジー人の母を持つ。15歳の時に札幌山の手高校に留学。東海大学2年時にU20日本代表のキャプテンとなったのを機に、日本代表を目指し、大学卒業後、ラグビークラブ「東芝ブレイブルーパス東京」に加入。2011年、母国ニュージーランドで開催されたラグビーワールドカップの日本代表に選出され、プールステージ全4試合に出場した。2013年に日本国籍を取得し、選手登録名を「マイケル・リーチ」から「リーチ マイケル」に変更。2014年4月、ラグビー日本代表のキャプテンに就任。2015年と2019年のラグビーワールドカップではキャプテンを務めた。そして2023年のワールドカップにも出場し、現在もプロラグビー選手として活躍している。2児の父。
取材協力=東芝ブレイブルーパス東京、TOKYO UNITE事務局
TOKYO UNITEとは
東京をホームタウンとする14のスポーツチーム‧団体が競技の壁を越えて、未来を担う子どもたちの夢や希望のために取り組んでいくプロジェクト。リーチマイケル選手の所属する東芝ブレイブルーパス東京をはじめ、読売ジャイアンツ(野球)やFC東京(サッカー)、アルバルク東京(バスケットボール)、日本相撲協会(相撲)などが参加。東京が抱える社会課題に向き合い、イベントやチャリティーオークション、情報発信などを通して、子どもたちがスポーツに親しむことで元気に育ち、東京をさらに魅力ある街にしていくことがミッションです。