2024年5月号
東京のジャングル?! 『夢の島熱帯植物館』のヒミツ
東京湾に面する「東京都夢の島熱帯植物館」(江東区夢の島)は、1年を通じて気温が高く雨の多い「熱帯雨林」と呼ばれる地域に生息する植物が見られる施設です。ここではジャングルに生息する「熱帯・亜熱帯植物」がより自然に近い状態で展示され、2011(平成23)年に世界自然遺産となった小笠原諸島にしか生息していない固有の植物も数多く育てられています。みなさんが楽しみながら貴重な植物に触れ、生物多様性をより身近に学ぶことができます。
ジャングルを守る大温室のヒミツ
夢の島熱帯植物館の温室は、植物館の隣にある国内最大級のごみ焼却施設「新江東清掃工場」でごみを燃やすことでできた熱が再利用されています。温室は20℃前後。空気も乾燥しないように保たれ、水温は植物の生育環境に合わせて25~30℃に管理されて、まさに“熱帯のジャングル”が再現されています。
夢の島熱帯植物館は、正面から見ると大きなガラスドームが三つ重なったような形をしています。
Aドームは熱帯の水辺の景観が再現されています。音を立てて滝が流れ落ちる池には熱帯性のスイレンやジャングルの河口に生息するマングローブなどがたくさん生い茂っています。
秘密のトンネルのような滝の裏側の道をくぐり抜けるとBドームに入ります。ここでは、ココヤシやバナナ、カカオなどの果実がなっている様子を見ることができます。チョコレートなどの原料となるカカオの実のなり方や、バナナの花を実際に見ると、意外な姿に驚きます。
世界遺産・小笠原諸島の「固有植物」
Cドームでは、世界遺産・小笠原諸島の植物がたくさん見られます。小笠原諸島は、東京都心から約1000キロメートルも離れた南の海に浮かぶ島々です。ここにしかいない固有の動物や植物がたくさん生息していて、大変貴重な自然が残っていることから、2011年に世界自然遺産に登録されました。
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※月は花の見ごろです
名前に「ムニン」がつく植物が多いことに気がつきましたか? 「ムニン」とは人が住んでいない「無人」の意味で、小笠原が昔「無人列島」と呼ばれていたことに由来しています。
虫をつかまえて食べる「食虫植物」
Cドームを出てすぐの左側の小部屋は「食虫植物温室」です。食虫植物は、厳しい環境で育ち、虫をつかまえて栄養源にすることができる植物です。つぼのような形をして虫を落としてつかまえる「ウツボカズラ」の仲間や、葉の表面にびっしりとはえた毛からねばねばとした粘液を出して虫をつかまえる「モウセンゴケ」、二枚貝のような形をした葉にさわると口のように閉じて虫をつかまえる「ハエトリグサ」などが見られます。虫を食べてしまうなんてまるで動物のようですね。
夢の島熱帯植物館にはこのほか、施設の前に広がる緑豊かな「東西の前庭広場」、オーストラリアの多様な在来植物を展示している「オーストラリア庭園」、食用や薬用、香辛料として利用されるさまざまなハーブを生育する「ハーブ園」があります。ここではふだん見られないようなユニークな植物とたくさん出会えます。
「ごみの島」から「夢の島」へ
実はこの夢の島熱帯植物館がある「夢の島」は、東京湾を埋め立てて作られた人工の島です。今では緑豊かな公園となっていますが、かつては“ごみの島”として有名でした。ですが、最初からごみの島だったわけではありません。
ここはかつて「東京湾埋立14号地」と呼ばれていました。1938年に水陸両用の飛行場を作る計画が立てられ、その予定地として作られたのが始まりです。しかし、戦争が激しくなって資材が足りなくなったため、飛行場計画は中止となりました。 終戦から2年後の1947年には、ここに海水浴場ができました。その名も「夢の島海水浴場」。このときから、この土地は「夢の島」と呼ばれるようになりました。しかし、「東京のハワイ」と宣伝された美しい海水浴場は台風の被害などから3年間で閉鎖。その後、7年間放置されていました。
1950年代後半から、日本は急速に経済が発展し、人口が増加。東京都内で発生するごみも急増しました。そこで、1957年にこの夢の島がごみの埋め立て処分場に選ばれました。毎日5000台ものごみ収集車でごみが運ばれたため、夢の島はあっというまにごみでおおわれる島となってしまいました。
そんな夢の島は、1966年にごみの埋め立て地としての役割が終わり、1974年に公園として整備されることになりました。翌1975年に「夢の島」が正式な町名となり、体育館、水泳場、競技場などが作られました。ごみの島だった夢の島は、上に土をかぶせ、芝生やたくさんの樹木を植えて公園となり、1978年に「夢の島公園」がオープンしました。
人々の努力によって“ごみの島”から“緑の島”へと生まれ変わった、夢の島公園。ごみ問題と向き合ってきた日々を感じながら、四季折々に表情を変える豊かな緑に会いに、みなさんもぜひ足を運んではいかがでしょうか。
取材協力=東京都夢の島熱帯植物館、東京都建設局
❖東京都夢の島熱帯植物館
見どころの花などは、東京都夢の島熱帯植物館公式Webサイトでチェック!
交通
東京メトロ有楽町線、JR京葉線、りんかい線『新木場駅』下車、徒歩13分
都営バス『夢の島』バス停下車、徒歩5分
営業時間
午前9時30分〜午後5時まで(入館は午後4時まで)
休館日は毎週月曜日(月曜日が祝日・都民の日の場合はその翌日)と年末年始(12月29日~1月3日)
入館料
個人で一般 250円、65歳以上 120円、中学生 100円
小学生以下と都内在住、在学の中学生は無料
●5月のイベント(予定)
「粘土でこいのぼりを作ろう!」(5月3日)
「作って飛ばそう!竹とんぼ」(5月4、5日)
「苗木のプレゼント」(5月5、6日)
「オリジナルこけだまを作ろう!」(5月6日)
「ウィークエンドコンサート」(5月4、18日)
ハーブでブーケを作る「香りのブーケ教室」(5月19日)