2024年6月号
教えて先生! 熱中症予防のためにできること
今年も暑い日が増えてきて、夏が近づいてきたのを感じますね。海やプール、花火、夏休み…楽しいことがたくさんある夏。ですが、ここ数年は最高気温が35℃以上になる「猛暑日」が増え、危険なほどの暑さのせいで、思うように外遊びができない日も多いでしょう。これには地球温暖化が影響していると言われています。
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それに加えて、都市部はビルなどの建物やアスファルトでおおわれた地面や道路が熱をため込み、エアコンや車など、ふだんの生活の中から発生する熱風もたくさん出ます。こうして日中に温まった都市は、太陽の沈んだ夜の間も熱を持ち続けるため、樹木の多い地域に比べて、気温が高くなります。(これをヒートアイランド現象といいます。)
暑くなり始めた今の時期からみなさんに気をつけてほしいのが、「熱中症」です。
熱中症はどうして起こるのでしょうか。また、熱中症の予防のためにはどんなことが大切なのでしょうか。そして、もし熱中症になったらどうしたらよいのでしょうか。熱中症の治療に詳しい順天堂大学医学部教授の杉田学先生にお話を聞きました。
熱中症はなぜ起こる?
―熱中症とはどんな病気でしょうか?
強い日差しを受けるなどして体温が上がり、体にいろいろな異常が起こることを熱中症と言います。 熱中症で起こる体の異常には主に二つの状態があります。
一つは、体の中の水分が足りなくなる「脱水症状」です。もう一つは、体の中に熱がこもってしまう状態です。健康な人間の体には、気温が高くても低くても、汗をかいて体温を下げるなど、体温をある程度一定に保つ働きがあります。熱中症になると、その働きがうまくいかなくなって、体が熱くなってくるのです。重症になると意識をなくし、体の中にある内蔵がうまく働かなくなり、ときには命を落としてしまうような危険な状態になります。
―熱中症になるとどんな症状が出ますか?
軽い症状だと、大量の汗が出てきたり、手や足がしびれたり、目がまわってふらふらする感覚や、周囲がふわふわした感じがする立ちくらみが起こったりします。よく「こむらがえり」と言いますが、足がつるなどして筋肉が痛くなったりすることも熱中症の症状のひとつです。また、気分が悪くなってぼーっとした状態になることもあります。
症状が少し重くなると、頭がガンガンと痛くなったり、吐き気が出たりします。体がだるく、意識がはっきりしないときもあります。軽い症状だと大量の汗を出すと言いましたが、症状が重くなると、汗が出なくなってきます。そうなったらもう体から水分がなくなり、脱水症状になっているサインです。
もっと症状が重くなると、意識がなくなり、水が飲めなくなります。呼びかけても返事がおかしかったり、歩こうとしてもまっすぐに歩けなかったりすることもあります。体がどんどん熱くなってきて、ときには体がぶるぶると震えだすこともあります。こんな症状になったらとても危険です。すぐに救急車を呼ぶ必要があります。
屋外だけじゃない! 車内や屋内にもひそむ熱中症の危険
―熱中症にならないために、何に気をつければいいですか?
太陽の光を直接受ける屋外では、体育の授業や公園や運動場などの日よけがない場所での運動や外遊びには、気をつける必要があります。また、車で外に出かけるときは、短時間でもこどもだけで車内に残らないように気をつけましょう。なぜなら、エアコンの効いていない車内は熱がこもり、とても高い温度になって危険だからです。
また、熱中症の危険があるのは屋外だけではありません。熱中症は蒸し暑い空間でも起こります。体育館など屋内で運動するときは、扇風機やサーキュレーターをまわして風通しを良くしましょう。家にいるときもエアコンや扇風機を上手に使って快適にすごせるようにしましょう。また、寝るときもがまんせず、エアコンを使って快適に眠るようにすることが大切です。
―自分や友だちが熱中症になったかな、と思ったらどうしたらよいですか?
手足がしびれたり、筋肉がつったり、頭がぼーっとしたり、立ち上がるとふらふらしたり。自分や友だちの体の「危険のサイン」に気づいたら、まずは日陰や涼しい場所に避難して、近くの大人に声をかけて助けを求めましょう。
そして、冷たい水やお茶を無理のない速さで飲むようにします。ぬらしたタオルや冷たいペットボトルなどを、首筋やわきの下、足の付け根にあてて、体を冷やすのも効果があります。吐き気がしたり、呼びかけても返事がおかしいときは危険です。すぐに救急車を呼んでください。
外に出るときは帽子、こまめに水分
―ふだんからできる熱中症対策はありますか?
栄養が不足していたり、寝不足だったり、体が疲れていたりすると、熱中症になりやすくなる、ということがわかっています。だから、対策としてはまず、十分な睡眠と食事で体調を整えておくことが大切です。そして、のどが渇く前にこまめに少しずつ、水分補給するようにしてください。適度な塩分もとれるとより効果的です。甘い飲み物を大量に飲みすぎないように注意しましょう。
また、外出するときは水分補給のための水筒を持っていくことに加えて、帽子をかぶるようにしましょう。できれば、首の後ろが隠れて日差しが直接あたらないような帽子が良いと思います。
そして、危険な暑さを事前に知らせる「熱中症警戒アラート」をおうちの人とチェックしましょう。学校によっては、熱中症になることを防ぐため、屋外での体育の授業内容を変更したり、運動会などのプログラムの変更や時間短縮を行ったりしています。周囲の大人の指示に従って、外での無理な活動はしないようにしましょう。
―さらに注意が必要なことはありますか?
アスファルトなどからはねかえる熱にも注意が必要です。こどもや車いすを利用している方などは、地面に近いため、より注意が必要です。まだ体の機能が十分に発達していないこどもは、大人に比べて、外からの熱で受ける影響は大きく、大人よりも熱中症になりやすいです。
みなさんも暑い日の外出や、運動をするときは、なるべく風が通り抜ける涼しい場所で遊ぶように気をつけ、水分をこまめにとり、適度な塩分もとるようにしてください。
暑さに負けない体づくりを大切に
夏の暑さから体を守るためには、熱中症の危険を意識して避けることが必要です。暑さが本格化する前から、十分な睡眠と食事で体調を整え、暑さに負けない体づくりを心がけましょう。危険な暑さを知らせる「熱中症警戒アラート」が出ている日はできるだけ外出をしないようにして、エアコンや扇風機を活用しながら暑さから体を守って、暑い季節を元気に過ごせるといいですね。
取材協力・監修=順天堂大学医学部附属 練馬病院副院長 救急・集中治療科教授 杉田 学先生
取材協力=東京都 保健医療局、環境局、東京消防庁、教育庁