2024年7月号
新札を世に送り出せ! 国立印刷局のヒミツ
みなさんは、お札をじっくり見たことがありますか?
わたしたちの生活に欠かせない、毎日当たり前のように使っている日本のお札は、世界で最も信頼の高いお札の一つで、実は“最先端の技術”がつめこまれた芸術品でもあります。7月3日からいよいよ新札が発行! 世界に誇る日本のお札が、“そこでしかつくることができない”理由を、国立印刷局で調査してきました。
国立印刷局って?
ところでみなさんは、日本のお金がどこでつくられているか知っていますか?
日本には、一万円、五千円、千円の「紙幣」といわれるお札と、五百円玉、百円玉、十円玉などの金属でできた「貨幣」といわれる硬貨があります。この二種類は、実は作っているところが違います。お札(紙幣)は、日本政府に代わって国のお金を管理している日本銀行から注文を受けて「国立印刷局」が製造しています。そのため、紙幣の正式な名前は「日本銀行券」で、お札にもそのように印刷されています。一方、硬貨(貨幣)は「造幣局」が製造しています。
国立印刷局は、お札のほかに、郵便切手、パスポート、そして住民票のように大切な証明書の台紙など、特別な印刷技術が必要なものづくりをする機関です。その高い印刷技術は、偽物が出回って困ることがないように、わたしたちのくらしを守り、社会を支えています。
国立印刷局の元になった「大蔵省紙幣司」は1871(明治4)年、明治新政府から頼まれてお札の仕事に関わるようになりました。まさに150年以上の長きにわたり、時代の移り変わりのなかで当時の最先端の印刷技術を取り入れながら、お札を製造してきました。
お札のデザインはどうやって決まるの?
ほとんどのお札の表側には、人物が描かれています。2000(平成12)年に発行された「二千円札」は、表側に沖縄の歴史的な建物「守礼門」が描かれていますが、人物の顔が描かれていない最近のお札はこの二千円札だけです。今回7月に発行されるお札には、一万円札に渋沢栄一(日本近代社会の土台をつくった実業家)、五千円札に津田梅子(女性の地位向上と女子教育に力を尽くした教育家)、千円札に北里柴三郎(感染症「破傷風」を予防・治療する方法を開発した細菌学者)が描かれます。
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お札のデザインの変更は、これまでの歴史を振り返ると、約20年に一度のタイミングで行われているそう。今回も2004(平成16)年以来のデザインの変更となり、ちょうど20年目となります。
お札にはこれまでに17人の人物が描かれています。だれが選ばれるのか、法令などによって決められているわけではありませんが、
❶偽造(にせものを不正につくる)防止のために、なるべく顔のきめ細かいところまで見られる写真があること
❷人物を彫りだす「肖像彫刻」であるため、“品格あるお札”にふさわしい人物であること
❸その人物が国民に広く知られており、だれもが認める立派な業績を残していること
―などが理由になっているようです。お札のデザインは、財務省、日本銀行、国立印刷局が検討し、最終的には財務大臣が決めます。
国立印刷局以外では製造できない!
偽造防止技術とユニバーサルデザインがつまったお札
ではどうしてお札のデザインを変えるのでしょうか。
国立印刷局にたずねてみると、新しい「偽造防止技術」を加えてコピーをつくりにくくすることと、だれもが使いやすい「ユニバーサルデザイン」を強化することが、大きな目的と教えてくれました。それとともに、デザインも全て新しくします。
▶偽造防止技術その❶ 触ってわかる
お札の人物などの主な部分には、「凹版印刷」という印刷方式が使われています。凹版印刷とは、彫刻された線のくぼんだ部分にインキをつめて印刷するもので、細かい部分まで表現できる印刷方法です。新しいお札の額面数字や識別マークなどには、とくにインキを高く盛り上げる「深凹版印刷」という特殊な印刷が使われ、触るとざらざらした感じがあります。
こうした印刷方法にすることで、お札の種類ごとに、それぞれ違う場所に「識別マーク」を入れ、さわるだけでどのお札かわかるようになっています。これはだれにでも使いやすい「ユニバーサルデザイン」を目指したものです。
また、新しいお札は、算数で使う数字(アラビア数字)による額面数字を、これまでのお札より大きくしています。多くの人になじみのある数字にすることで、年齢や国籍を超えて“使いやすいお札”を目指しています。
▶偽造防止技術その❷ 光にすかしてわかる
偽造防止技術にはまず「すかし」があり、これは伝統的な和紙の技術「すき入れ」がもとになっています。これまでのお札も光にかざすと肖像が浮かぶ「すかし」が入っており、その細かな表現は、これまでも世界から高く評価されています。新しいお札では肖像の周囲に、細かい連続模様が入れられていて、さらに偽造することが難しくなっています。
▶偽造防止技術その❸ 傾けてわかる
さらに、偽造防止技術として、最先端の「3Dホログラム」が使われています。3Dホログラムは、印刷された用紙に高い熱と圧力をかけて紙にぴったりと貼り付けられます。お札を左右にかたむけると、顔が回転してこちらを見ているかのような立体感が表現されており、この技術がお札に使われるのは世界で初めてのことです。そのほか、顔以外の絵も見る角度によって見え方が変化します。
このほかにも、偽造防止技術がたくさん使われています。コピー機では再現が困難であるとても小さい文字「マイクロ文字」が印刷されていたり、かたむけると数字や文字が浮かび上がる「潜像模様」が入れられていたり、かたむけるとお札の左右両端の余白部分にピンク色の光沢が現れる「パールインキ」が使われていたり。紫外線を当てると、表面の日本銀行の『総裁之印』や模様の一部が光って見える「特殊発光インキ」も使われています。
▶工芸官が生み出す芸術品
国立印刷局には「工芸官」という専門の職員がいて、お札のデザインや、印刷のもととなる原版の彫刻などをしています。デザイン担当の工芸官は、何十年もの長い間修業をして、お札のもとになる絵を描けるようになります。その絵をもとに、彫刻担当の工芸官が、特殊な彫刻刀を使って金属板に細かく刻みこんで、お札を印刷するための原版を作ります。
「工芸官」は、何人いるのか、だれが何を担当しているのか、などはいっさい秘密になっているのだそう!
取材協力、画像提供=国立印刷局
💡お札にまつわる豆知識
それではここで、お札にまつわる豆知識をご紹介しましょう。
銀行などお金をあつかう機関は、“銀行の銀行”といわれる日本銀行にお金を預けています。国立印刷局で作られた新しいお札は、まず日本銀行に渡され、日本銀行から引き出されて各銀行に届きます。そしてそこから私たちがお金を引き出すことで、世の中に新しいお札が出回ることになります。
▶いま世の中に出回っているお札はどうなるの?
一方で、古いお札は銀行などからの「預け入れ」で日本銀行に戻されます。お札の寿命は、よく使われる千円札・五千円札は1~2年程度、一万円札は4~5年程度とされています。日本銀行に戻ってきたお札はチェックされ、汚れたり破れたりして使えなくなったお札は復元して悪用されないよう細かく切られてリサイクルされます。(出典:日本銀行HP)
▶お札の色はどうやって決めているの?
赤、青、緑、黄、黒などの単純な色は、カラーコピーやスキャナーなどでかんたんに出せてしまうので、あえて同じ色味を出すことが難しい色をつくって偽造を防いでいるそう。
▶お札は破けてしまっても使えるの?
お札は破けてしまっていても、日本銀行の決めた“ルール”を満たしていれば、交換して使えます。ただし、破けて残っている部分の大きさによって、金額が「全額」「半額」「交換できない」と決められています。でも、こうしてたくさんの技術を組み合わせて作られたお金は、一枚一枚がとても大切なもの。丁寧にあつかいましょう。(出典:日本銀行HP)
お札をじっくりながめてみよう
実はお札のもとになる「紙」も、国立印刷局で原材料から作っています。独特のしなやかな感しょくがあって、水にも強いしっかりとした紙が、主に和紙の原料などにも使われる「みつまた」や「アバカ」などの植物から丁寧に作られています。
ふだん、当たり前のように使って、じっくり見つめることもないお札。みなさんも新しいお札が手元に届いたら、この機会にすみからすみまでしっかり観察をして、日本のお札に関わるたくさんの仕事や、つめ込まれた技術に思いをめぐらせてみましょう。
❖国立印刷局 東京工場
国立印刷局は全国に工場が6か所あり、そのうち4つの工場(東京・小田原・静岡・彦根)は見学することができます(所要約90分、事前申し込み・無料)。お札がどのように作られているのか、どんな技術が使われているのか、実際に見ることができます。夏休みの自由研究のテーマにもできるかもしれません。みなさんも見学してみてはいかがでしょうか。
住所 東京都北区西ケ原2-3-15
交通 東京メトロ南北線「西ケ原駅」(1番出口)下車 徒歩1分
JR京浜東北線「上中里駅」下車 徒歩10分
見学日 火曜日、木曜日(祝日および年末年始を除く)
対象 小学生以上。個人での申し込みも可能
(1回につき約40人まで)
見学の申し込み こちらから
※見学者全員の氏名、年齢および住所の登録が必要
❖東京インフォメーション 「お金」について楽しく学ぼう!
▶金融リテラシー向上のための講師派遣
お金は、生きていくためにわたしたちの生活と切っても切り離せないもの。東京都は、こどもたちに「お金」について大切な知識を早いうちに身につけてもらうために、学校に先生を派遣して授業を行っています。
年齢にあった内容で、自分の夢を通して働くことを考え、お金の役割や、暮らしとお金の関係、お金のトラブルにあわないようにするために気をつけることなどについて学ぶことができます。
▶夏休み特別企画「めざせ『税博士』チャレンジ!」
税金について楽しく学んでみませんか?
東京都主税局ホームページに掲載している「タクちゃんとさがす税発見タックスタウン」ゲームは、税が使われているものを見つけたり、税のクイズに答えたりしてコインを集めるゲームです。ランクが『税博士』になったら、タクちゃんオリジナルグッズをプレゼントするキャンペーンを実施します(8月31日まで)。ぜひ挑戦してみてください!
※応募が多い場合は抽選になります。くわしくはホームページをご確認ください。
▶「夏休み親子税金教室」を開催
東京都主税局では、親子で都税について楽しく学べる税金教室を開催します。
今年はみんなでゲームをプレーしたり、都議会議事堂を見学するなど楽しいコンテンツが盛りだくさんです。ぜひ親子でご参加ください!
日時 2024(令和6)年8月13日(火)午前の部:午前10時~午後12時、午後の部:午後3時~午後5時
場所 都庁第二本庁舎
申し込み方法 主税局ホームページよりお申し込みください
申し込み期間 2024(令和6)年7月1日(月)から7月19日(金)まで
▶都立中央図書館企画展示「北里柴三郎と新しいお札の偉人たち」
都立中央図書館(港区)は、20年ぶりの新札発行にあわせ、新しいお札の顔 北里柴三郎、津田梅子、渋沢栄一の3人を、北里柴三郎を中心にパネルや本で紹介します。また、新札に施された工夫や貨幣の歴史についても展示します。
日時 2024(令和6)年7月27日(土)から10月2日(水)まで
(平日 午前10時~午後8時45分、土日祝 午前10時~午後5時30分)
休館日 8月1日(木)、16日(金)、9月5日(木)、20日(金)
場所 都立中央図書館 4階 企画展示室
入場料 無料
くわしくは、都立図書館ホームページをごらんください。
▶新紙幣発行記念 都庁パネル展
新紙幣の発行を記念して、新札やモデルになった人物についてのパネル展を都庁舎で実施しています。
場所 都庁第一本庁舎2階中央
日時 2024(令和6)年6月17日(月)から7月21日(日)まで
(平日 午前8時~午後6時45分、土日・祝日 午前9時~午後6時45分)