2024年8月号
「生物多様性」を守るために、わたしたちにできること
みなさんは「生物多様性」という言葉を聞いたことがありますか?
生命が誕生して以来、生きものは、長い歴史の中でさまざまな環境に適応して進化してきました。わたしたちが暮らす地球には3000万種類もの生きものがいると言われています。これらの生きものが、豊かな自然環境のもと、直接・間接的に支えあって生き、絶妙なバランスを保っているのが「生物多様性」です。
わたしたちの身の回りを振り返ってみると、毎日食べるお米やおかずは、植物や動物が原料となっています。また、学校やおうちで使っているノートやえん筆の原材料には木が使われています。人間をふくむ生きものは、生物多様性のめぐみを受けて初めて暮らしていくことができるのです。
しかし、人間の活動が自然環境を変えてしまい、生物多様性が失われつつあります。そのため、生物多様性を守っていくことの大切さが、いま世界でも注目されているのです。
生物多様性を守っていくにはどうしたらよいのか、一緒に考えていきましょう。
生物多様性ってなんだろう?
わたしたち人間をふくむ生きものたちが、さまざまな環境のなかで、直接・間接的に支えあっている「生物多様性」。この生物多様性には、3つのレベルの多様性があります。みなさんも一緒に思い浮かべてみましょう。
1つ目は「生態系の多様性」。山や川や海、まちなど、たくさんの自然環境があることです。
2つ目は「種の多様性」。動物や植物、菌類など、たくさんの種類の生きものがいることです。
3つ目は「遺伝子の多様性」。同じ種類の生きものであっても、色やかたち、模様などたくさんの個性があることです。
生物多様性は、地球上の人間をふくむさまざまな生命の長い歴史の中でつくられたかけがえのないもので、わたしたちの生活に欠かせないめぐみをあたえてくれます。
毎日食べる食べものだけではなく、わたしたちが生きていくために欠かせない空気や水、自然にふれることにより得られる安らぎなども、生物多様性のめぐみです。
東京都の多様で豊かな生態系
東京都は、本土部から小笠原諸島にかけて南北約1700km、高低差は2000m以上。東京都内で最も高く亜寒帯気候の雲取山(標高2017m)から、温暖でヤシの木などがみられる小笠原諸島、日本で唯一の熱帯気候である沖ノ鳥島など、幅広い気候があります。
さらに、公園などの緑地が整備された都心部、屋しき林や田んぼ・畑が残る住宅地、生物多様性の宝庫である里山や雑木林など、豊かな自然環境があります。そのため、東京都には多様で豊かな生態系が残されているのです。
東京都の山地の雲取山周辺では自然のままの林が広がっていて、それよりも標高が低い地域ではスギ・ヒノキなどの人によってつくられた林が広がっています。こうした環境に、ツキノワグマなどの大型ほ乳類や、サル、ウサギなどの生きものが生息しています。
また、島しょ部は、大昔に海から偶然運ばれてきた生きものの子孫が、島という環境で外部から守られながら長期間かけて進化し、その地域にしかいない「固有種」となりました。そのため、希少な生き物がたくさんいて、島ごとに特徴的な生態系があります。島しょ部の中でも小笠原諸島は、豊かな自然が人類の宝と評価され、2011(平成23)年に「世界自然遺産」に登録されました。
また、ビルやアスファルトの印象がある都心部にも、皇居や国立科学博物館附属自然教育園、新宿御苑など、大規模な緑地が残されていて、さまざまな生きものが暮らす場所となり、都心の生物多様性保全の拠点になっています。
東京都の生物多様性の課題
一方で、東京都の生物多様性は4つの危機に直面しています。
第1の危機
「人間活動による影響」
まちの開発による森林伐採や畑・田んぼなどの農地の減少などのことです。
第2の危機
「自然への働きかけが減ったことによる影響」
猟師が減ったことでニホンジカが増えて、木の皮を食い荒らしてしまうなどのことです。
第3の危機
「人によって持ち込まれたものによる影響」
もともと日本にいなかった外来生物が、日本にいる生きものを食べてしまい生態系に影響をあたえることなどです。
第4の危機
「地球環境の変化による影響」
気温上昇による生きものの分布の変化や絶滅リスクの増加などのことです。
たとえば、日本は1950年代後半から急速に経済が発展して都市に人口が集中し、森林が伐採されたり農地が減ったりしたことなどにより、野生生物の生息地は減っていきました。さらに、空気や水が汚れて環境が悪くなったことも野生生物の生息環境を悪くさせる要因となり、東京では、ホタル類、トンボ類、トノサマバッタやホンドタヌキなどの生きものたちが急速に都心で見られなくなりました。
近年では空気や水質の改善、公園・緑地の整備などにより、ギンヤンマ、トノサマバッタ、ホンドタヌキなどは都心でも再び見られるようになりましたが、ゲンジボタルのように、都心ではほとんど見られないままの生きものも多く残っています。
▼東京の生物多様性の保全に重要な自然環境の例
このような絶滅のおそれのある野生の生きものをまとめたリストを「レッドリスト」といいます。東京都は、自然環境の特徴が大きく異なる「本土部」と「島しょ部」に分けて、保護が必要な野生の生きものを「東京都版レッドリスト」としてまとめ、掲載されている生きものの生息状況などを「レッドデータブック」で解説しています。
▶東京ではすでに絶滅してしまった生きもの
絶滅した生きものには、「オオカミ」、川などに自生していた藻の一種「ムジナモ」、そして都内では、きれいな水を好むトンボ「グンバイトンボ」も絶滅したと考えられています。
とくに植物や昆虫類が種類を減らしつつあり、「オキナグサ」や「クロゲンゴロウ」などが東京都内で新たに絶滅したとされています。
▶東京にゆかりのある生きものや、めずらしくなった生きもの
レッドリストに出ている野生の生きものには、1929(昭和4)年に足立区で採集された標本から命名された「トウキョウトラカミキリ」、2003(平成15)年に八王子市で発見された「ハチオウジアザミ」、水田の減少で生息数が減っている「トウキョウダルマガエル」など東京にゆかりがある種も入っています。
また、レッドリストには、かつては身近に見られていた生きものなのに、大変めずらしくなってしまった「ミナミメダカ」や「ヒバリ」、多摩部でわずかに残るだけになっている「キキョウ」もふくまれています。
こちらで紹介した野生の生きものはとても少なくなっているので、大切にしなくてはいけません。みなさんがもし見つけたら、つんだりつかまえたりせずに、そっと観察しましょう。
100年先の東京を見据えた新たな緑のプロジェクト
東京には森林や公園など、たくさんの緑があります。東京都は、自然と調和した持続可能な都市を目指し、100年先を見据えた緑のプロジェクト「東京グリーンビズ」で、この豊かな緑を「まもる」「育てる」「活かす」取り組みを進めています。
東京グリーンビズマップ
「東京グリーンビズマップ」では、公園など東京の緑あふれるスポットを紹介しています。緑にふれあえるイベント情報なども掲載していますので、ぜひご利用ください。
「山の日」全国大会
8月11日「山の日」は、山に親しみ、山のめぐみに感謝する国民の祝日です。わたしたちの暮らしを支えてくれる東京の山々や豊かな自然を、みなさんが楽しみながら学べるように、さまざまなイベントを行います。
8月10日、11日には、お笑い芸人の錦鯉やみやぞん、パフォーマーによるステージショーのほか、体験イベント、ご当地グルメキッチンカーなど、こどもから大人まで楽しめる歓迎フェスティバルを開催します。また、都内各地のイベントを回るスタンプラリーも行われており、夏休みに参加できる企画がもりだくさんです。ぜひウェブサイトをチェックしてください。
一人ひとりが調査員!「東京いきもの調査団」
植物や動物、鳥、昆虫などの野生の生きものが今、東京都内のどこにどれだけいるのかを知ることは、生物多様性を守っていくために大変重要です。しかし、専門家だけでは、くわしく調査することができません。「東京いきもの調査団」は、東京都、専門家、都民が「調査員」となり、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」を中心に野生の生きものの情報を集め、「デジタル版野生生物目録『東京いきもの台帳』」をつくるプロジェクトです。
2023(令和5)年度は、区部・多摩部・島しょ部から、合わせて12万件を超える投稿がありました。参加者から集めた情報は専門家の協力のもと、東京都の自然を明らかにするために役立てられます。みなさんもぜひ参加してみてください。
「東京いきもの調査団2024年夏編」の詳細や参加方法は、公式ウェブサイトで確認できます。
まとめ💡 豊かな生物多様性を守るために
生物多様性を守っていくために、わたしたちには何ができるでしょうか。一緒に考えてみましょう。
💡生きものに興味を持ち、自然体験イベントへ参加する
まず大切なのは、「身近なことから行動する」です。たとえば、動物園や植物園などの施設で生きものを観察し、生きものに興味を持つことも生物多様性を理解するための第一歩。先ほど紹介した「東京いきもの調査団」の調査員になってみたり、田んぼや森で行われるボランティアに参加したりするのもよいでしょう。みなさんもぜひ、自然を発見し、体験するためにイベントに参加してみましょう。
💡ペットを大切に育てる
野生の生きものが少なくなっている原因に「人によって持ち込まれた生きものによる影響」もあります。みなさんもよく知っているアライグマやアメリカザリガニ、「ミドリガメ」の名前でペットとして輸入されたアカミミガメなどは、もともと日本にはいなかった「外来種」です。
ペットなどとして飼われていたものが、自然に放されて繁殖し、日本にもともといる生きものを食べるなどして、生態系に大きな影響を与えています。ペットを飼うときは、責任をもって最後まで大切に育てましょう。
💡野生の生きものとは適切な距離を持つ
また、人と野生の生きものの間に適切な距離を持つことも大切です。もし野生の生きものに出会っても、「かわいいから」「近くにきてほしいから」という理由でエサやりをしてはいけません。
春先などは鳥のヒナが地面にいることもありますが、親鳥が近くにいるので、近づかずそっとしておいてください。
そして、めずらしい生きものを見つけても、家に持ち帰らないようにしましょう。SNSなどで発信するときは、その生きものがねらわれてしまう可能性もあるので、見つけた位置情報は伝えないようにすることも重要です。
生物多様性のめぐみを守っていくために、みなさんにもできることがたくさんあることがわかりましたか? みなさんにもできる活動を通して、身近な生きものや自然環境を大切にするために何ができるか考えてみましょう。
取材協力=東京都政策企画局、環境局
参考=子ども環境情報紙『エコチル』