2024年10月号
ものの流れの中心地「東京港コンテナターミナル」
みなさんが今日食べたものや、いま着ている洋服は、どこからやってくるのか考えたことはありますか?実は、みなさんがふだん食べている海産物や果物、そして洋服やくつなど身の回りの品物は、海を越えて世界中の国々から輸入されているものがたくさんあります。そして、その貿易の99%以上で船が使われています。
もし船が来なければ、あらゆる品物が不足して、わたしたちの生活は成り立たなくなってしまう、と言ってもよいでしょう。東京港には海外から船でたくさんの品物が運び込まれ、集まった品物はここからさまざまな場所に運ばれていきます。首都圏のものの流れの中心地になっている東京港。どんなところなのか、探ってみましょう。
わたしたちの生活と港
わたしたちの生活の中には、海外から届く品物がどれくらいあるでしょうか。家の中を思い浮かべてください。オレンジやバナナなどの果物、毎朝食べるパンの原材料の小麦粉、アイスクリームなどのスーパーで買う食べ物、洋服やくつ、家具や家電など……生活に必要なあらゆるものが東京港を通って、わたしたちのくらしを支えています。
では、世界中の国々から海を渡って、どのようにして家に届くのか、ものの流れについてサーモンを例に見てみましょう。
東京港って、どんな港?
東京港は、東京湾にある港の一つです。東京湾には、東京、横浜、川崎、千葉、横須賀、木更津の6つの港がありますが、東京港は東京湾の北西の一番奥にあります。
みなさんが生活している場所の近くなので、東京港にはたくさんの品物が集まってきます。
世界中の国々からの輸入品のほとんどは、「コンテナ」と呼ばれるとても頑丈な箱に入れて運ばれます。東京港は日本全体で扱われるコンテナの約4分の1が集まっており、コンテナの取扱量が日本で最も多い港です。
「コンテナふ頭」とは
船を岸につけて、荷物の積み下ろしや乗客の乗り降りなどをする場所を「ふ頭」といいます。
東京港には、コンテナの積み下ろしをするコンテナふ頭が、「品川コンテナふ頭」「大井コンテナふ頭」「青海コンテナふ頭」「中央防波堤外側コンテナふ頭」の4か所あります。
コンテナふ頭の水深は、深いところで16メートルあり、20フィートコンテナが最大で約1万4000個積めるコンテナ船が入港できます。
船客が乗り降りするふ頭としては、「竹芝ふ頭」「日の出ふ頭」などがあり、なかでも竹芝ふ頭は東京都の伊豆諸島や小笠原諸島へ向かう船の発着地になっています。日の出やお台場などを発着場として東京港をめぐる水上バスも運行されており、観光客にも人気があります。
このほか、東京ビッグサイトなどがある臨海副都心や、ごみの最終処分場、お台場海浜公園や若洲海浜公園など、レジャーが楽しめる40か所もの海上公園も、東京港の中にあります。
コンテナの種類
コンテナの形と大きさは世界共通で決まっています。20フィート(約6メートル)と、40フィート(約12メートル)の2種類が基本になっています。形や大きさが同じなので、世界中、どの港に行っても、同じように運んだり積んだりできます。
コンテナには、さまざまな品物を中に入れる「ドライコンテナ」のほか、液体の荷物を運ぶ「タンクコンテナ」、電源につないで電気で温度を管理し、冷凍品や冷蔵品を運ぶ「リーファコンテナ」などがあります。
ではどうして、コンテナが使われるのでしょうか。コンテナがない時代は、荷物の形や大きさがバラバラで、船やトラックに積むとムダなすき間ができることが多かったようです。そして荷物を積んだり下ろしたりするときは、人間が肩にかついで運んでいました。そのため、作業にはすごくたくさんの時間がかかっていました。また、雨が降ると荷物がぬれてしまい、作業ができなくなることもありました。
しかし、サイズと形が“世界共通”のコンテナができると、クレーンを使って荷物の積み下ろしができ、人の力に頼るよりもずっと速く作業ができるようになりました。また、コンテナをそのまま船からトラックや鉄道に積み替えることもできます。荷物は金属製の頑丈なコンテナに入っているので、重ねてもつぶれず、雨の日でも中の荷物がぬれることはありません。このように荷物の運び方を大きく変えたコンテナは、“魔法の箱”と呼ばれています。
コンテナを使った輸送は、1956(昭和31)年にアメリカで始まりました。いま紹介したとおり、とても便利なので、またたく間に世界中に広まりました。東京港は日本で最初にコンテナふ頭を作った港で、1967(昭和42)年には日本で初めて、品川コンテナふ頭にコンテナ船が入港しました。
コンテナふ頭で働く巨大クレーン
港には、品物がたくさん詰め込まれた重いコンテナを手際よく運ぶ、さまざまなクレーンがあります。みなさんは、港に見える首が長いクレーンを見たことがありますか? これは、コンテナふ頭でもっとも存在感のある、船からコンテナを積み下ろしする「ガントリークレーン」です。
何台ものガントリークレーンが並んでいる姿は、遠くから見ても迫力があってかっこいいですね。足や首が長くてまるでキリンのような形をしているので、“海のキリン”と呼ばれています。最大約35トン(大人のゾウ5~6頭分)のコンテナを2分に1個動かせる力持ちのクレーンです。
“海のキリン”ガントリークレーン
ガントリークレーンの操縦室は、高いところにあるので、専用のエレベーターに乗り込みます。
エレベーターでのぼると、そこは高さ45メートル。足がすくむような高さの橋を渡り、扉が開くと、そこには足元までガラス張りの操縦席があります。
クレーンを操作する人は、1人でこの操縦席に座り、ガラス越しに直接コンテナを見て、モニターで調整しながらコンテナを次々と運びます。
ガントリークレーンのオペレーターは操縦席の手元のレバーを操作して、コンテナを運びます。もっとも大切なのは、コンテナの角を下の段に合わせ、正確に積み上げていくこと。このクレーンを素早く、丁寧に操作するために、オペレーターは4〜10年もかけて腕をみがきます。
オペレーターは高い集中力を必要とするため、休憩を入れながら、ほかのオペレーターと交代で作業します。船が港に停まっている時間は限られているので、たくさんの荷物を次々積み下ろすために、港で働く人たちが朝から晩まで力を合わせます。東京港では、こうして振り分けられたコンテナを運ぶたくさんのトラックが、休むことなく出たり入ったりしています。
💡豆知識 ガントリークレーンの色はどうして赤と白なの?
ガントリークレーンが赤と白に塗られているのは、「航空法」という法律で決められているためです。近くに羽田空港があるので、衝突事故などが起こらないように、高さが60メートル以上あるクレーンなどは、よく目立つ赤と白で塗るように決められています。また、クレーンを下げているのも飛行機との衝突事故を避けるためで、同じく航空法に定められています。キリンが首を下げている姿にも見えますね。
コンテナをきれいに並べるトランスファークレーン
コンテナ船がふ頭に到着すると、まず、ガントリークレーンで船からコンテナを下ろし、トレーラーに乗せます。そのトレーラーで、コンテナを一時的に置いておく「おき場」に移動します。おき場で荷物の積み下ろしをするのは、コンテナをきれいに並べるのが得意な「トランスファークレーン」です。
荷物の引き取り日や行き先によって置く場所を分けながら、トレーラーからコンテナを下ろします。最後にコンテナを引き取りに来たトレーラーに、トランスファークレーンでコンテナを積みます。そしてさまざまな荷物がトレーラーに積み込まれ、届け先まで運ばれていきます。
進化する東京港
東京港は世界中の国々と日本をつなぐ玄関口として、未来を見すえた港づくりをしています。
まず、より効率的に港を利用できるように、港を整備してもっとたくさんの荷物を扱えるようにしたり、最新技術を使って、ものの流れをもっとスマートにしようとしています。
次に、東京港に太陽光発電を取り入れたり、省エネ型の機械を利用したりすることで、地球温暖化の原因となる二酸化炭素をできるだけ出さないように取り組んでいます。そうすることで、さまざまな生物がくらす海や緑を守ります。
また、大地震などの災害が起きた時に、首都圏のものの流れを支えつづけるために、地震に強い港になっています。港で働く人たちも、万が一に備えてしっかり訓練をしているそう。
このようにして、東京港は人々のくらしを支えながら、未来に向けて進化していきます。
さて、みなさんは、東京港の大切さがわかりましたか?いま身の回りにあるもので、どれが東京港からやってきているのか、考えてみるのもおもしろいですね。
取材協力=東京都港湾局、東京港埠頭㈱、オーシャン ネットワーク エクスプレス ジャパン㈱、川崎汽船㈱、㈱ダイトーコーポレーション