2024年11月号
もっと知りたい!人を助ける「補助犬」の基礎知識
みなさんは、「補助犬」という犬がいることを知っていますか?
補助犬は、体に障害がある人の生活を支える大切なパートナーです。目が見えない・見えにくい人の手助けをする「盲導犬」も補助犬のうちの1種類です。
補助犬が入れない場所はあるの?なでたり、声をかけたりしたらいけないの?
街で見かけたらあなたはどう行動したらよいでしょうか。補助犬について一緒に学びましょう。
体に障害のある人の手助けをする補助犬
補助犬には「盲導犬」のほかにも、「介助犬」「聴導犬」の合わせて3種類がいます。それぞれが得意としていることはどんな仕事でしょうか。
盲導犬
盲導犬は、目が見えない・見えにくい人が安全に歩く手伝いをする犬です。交差点や段差で止まったり、障害物をよけたりします。ユーザーは、犬の胴体に固定した大きな持ち手がついた「ハーネス」を持ち、地図を頭にえがきながら歩く方向や周囲の状況を判断して歩きます。
介助犬
介助犬は、おもに家の中で手や足などに障害のある人のふだんの生活をサポートします。ユーザーの指示に従って落とした物を拾ったり、指示されたものを持ってきたり、扉の開け閉めもします。
聴導犬
聴導犬は、耳が聞こえない・聞こえにくい人に、音が鳴ったことを知らせる犬です。赤ちゃんの泣き声、ドアのチャイム、目覚まし時計などの音が鳴ると、ユーザーのところまで行って知らせ、音が鳴っているところまで案内します。
毎日の生活のパートナー「介助犬」の仕事
補助犬の仕事にくわしくなったところで、ユーザーの話を聞いてみましょう。3種類すべての補助犬を育成している日本補助犬協会の安杖直人さんに、介助犬について教えてもらいました。
介助犬は、手や足などに障害があるユーザーと一緒に生活し、生活に必要な動作をサポートする犬です。たとえば、落としたカギや携帯電話(スマートフォン)を拾ったり、ドアを開けたり、照明のスイッチを入れたり。引っぱる動作で着替えを手伝ったりすることもできます。
安杖さん自身も介助犬のユーザーです。20年ほど前に交通事故にあって、胸から下を動かすことができなくなり、車いすでの生活になりました。「仕事を辞めて、実家に戻りました。初めは母に付きそってもらっていましたが、何とか自立したいと思い、東京で一人暮らしを始めました。1年ほどで生活のほとんどは自分でできるようになりました」
ですが、ときどき、困ったことが起こります。「突然熱が出てしまったり、転んで身動きがとれなくなったり、ということがありました。そうなると自分ひとりではどうすることもできなくなります」
そんな時、ちょうど同じマンションに介助犬ユーザーがいて、安杖さんも介助犬ユーザーになってみようと思ったそうです。「ふだんの生活は自分の力でできるのですが、何かが起きたときに、携帯電話を取ってきて、連絡が取れるようにしてくれる介助犬がそばにいてくれると、とても安心です」
安杖さんは、補助犬のおかげで自立する自信がつき、家の外に出て社会でまた活躍したい、と思えるようになったと言います。これは補助犬が持つ「社会参加の力だ」と話してくれました。
安杖さんのパートナーとなる介助犬は、黒いラブラドル・レトリバーの「ノース」。3歳のメスです。ノースで3代目、前の2頭はオスでした。安杖さんは、ノースの頭をなでながら、「前の2頭はマイペースだったのですが、ノースはよく気がききます。人間と同じで、犬によって性格が違いますね」と愛情たっぷりに笑います。
介助犬のトレーニングは、ボール遊びから始まります。指示通りボールを持ってこられるようになってきたら、持ってくるものを変えます。“指示されたものを持ってきて、思い切りほめてもらう”をくり返し、遊びの感覚で仕事ができるようになっていきます。
盲導犬や介助犬は、大型犬のラブラドル・レトリバーがほとんどです。いろいろな犬種がある中で、ラブラドル・レトリバーは、人が大好きで、環境の変化にあまり動じず、人の隣にぴったりついて歩くのに体の大きさがちょうどよいためです。家の中で手伝いをすることが多い聴導犬の場合は犬種がさまざまで、チワワなどの小型犬もいるそうです。
介助犬や聴導犬は家の中で過ごす時間が長いので、運動不足にならないように気をつけているそうです。今年の夏は暑かったので、ノースは朝夕の涼しい時間帯に散歩に出かけていたのだとか。ユーザーから愛情を受けて、たくさん遊んで散歩して……と考えると、みなさんのお家にいるペットの犬と同じ部分もありますね。ただ、補助犬はユーザーとさまざまな場所へ一緒に行けると法律で決められた特別な犬です。さまざまな決まりがありますが、飛行機の客席に乗ることもあります。
補助犬になるまで
日本補助犬協会では盲導犬、介助犬、聴導犬となる犬は、生まれてから1歳になるまでは、「パピーファミリー」と呼ばれるボランティアの家で、人が大好きになるように愛情いっぱいに育てられ、人と暮らす基本的なルールを学んでいきます。
1歳で訓練センターに戻り、補助犬に向いているか、向いているとすればどの補助犬に向いているかの適性評価を受けます。人と一緒で犬にもそれぞれの“個性”があるので、日本補助犬協会では補助犬に向いていないと判断された犬を、無理に補助犬として育てることはしないそうです。その適性評価に合格する割合は3割程度です。合格した犬は候補犬と呼ばれ、その後約1年間、補助犬を目指すための専門的な訓練を受けます。
その後、訓練を進めながら、ユーザーとの相性などをみる“マッチング”を行います。パートナーが決まると、ユーザーのニーズに合った作業がさらにうまくこなせるように、訓練を重ねていきます。
ユーザーは候補犬への指示の出し方やトイレや散歩などの飼育の仕方、遊び方などを学ぶ合同訓練をします。お互いに信頼できるようになったら、認定試験を受験。合格すると、いよいよ補助犬としての仕事が始まります。
補助犬は10歳になると、仕事から引退です。「犬の10歳は、人間で言えばだいたい60歳くらい。体が弱る前に引退してもらいます」と安杖さん。引退後は、ユーザーの家族が引き取ったり、子犬時代に過ごしたパピーファミリーの元に帰ったり、引退犬ボランティアの家庭で飼ってもらったり、協会の老犬ホームに入ったりして、残りの時間をゆったりと安心できる環境で過ごしてもらうのだそうです。
ちなみに、訓練の途中で補助犬とならなかった犬も、育ててくれたパピーファミリーや一般の家庭のペットとして、幸せに暮らすのだそうですよ。
「わたしたち補助犬のユーザーは、愛情いっぱいに自分のパートナーと接しています。24時間365日一緒にいるので、きずなもより深くなります。ですから、引退の時がやってきて、はなればなれになるのはつらいです。犬も、人と同じなんですよ」と話してくれました。「以前は、『補助犬は一日中仕事をしていてストレスがたまるので、寿命が短い』と言われたこともありますが、それは間違いです。犬たちは仕事で仕方なく人間の手伝いをしているのではありません。犬たちも、人間の手伝いをすることが幸せなのです」
街で補助犬ユーザーに出会ったら
街で補助犬ユーザーに出会ったら、わたしたちはどうするのがよいでしょうか?また、してはいけないことは、どんなことでしょうか?盲導犬は白または黄色のハーネス、介助犬・聴導犬はマント(どう着)を身に着けて仕事をしています。
補助犬が仕事に集中できるように、ぜひ次のことを覚えておいてください。
💡補助犬に声をかけない
💡補助犬をなでない
💡補助犬をじっと見ない
💡補助犬にペットをあいさつさせない
💡補助犬に食べ物を見せない、与えない
💡補助犬の写真をとらない
困っているように見えたら、ユーザー本人へ声をかけましょう。補助犬を「かわいい」と思っても、心の中で応援して、理解し見守ることが大切です。
補助犬を理解し、受け入れよう
安杖さんは、「多くの人が利用できる施設などでは補助犬を連れて入るのを断ってはいけないと法律で決まっているのですが、それを知らない人がまだ多い」と言います。
補助犬はユーザーの責任で、いつも清潔にされていて、トイレも適切な場所できちんと済ませられるようにしています。また、予防接種や健康診断を受けて、健康を保つようにしています。スーパーや飲食店などの食品を扱っている店や電車やバス、新幹線や飛行機などの公共交通機関、ホテルなどでも、マナーをしっかり守って行動することができます。そして、レストランでの食事中も、補助犬はユーザーの足元でとても静かに過ごすことができます。
わたしたちが補助犬を理解し、社会全体が補助犬を受け入れる必要があります。ぜひおうちの人や周りの友達にも、そのことを教えてあげましょう。
最後に、安杖さんに、みなさんに知ってほしいことを聞きました。
安杖さんは「補助犬を見かけたら、そっと見守ってほしいのですが、補助犬ユーザーには声をかけても大丈夫です。もし補助犬を連れている人が困っていたら、『何かお手伝いできることはありませんか』と声をかけてくれるとうれしいです」。障害のある人もない人も、困っている人を見かけたら、勇気を出して声をかけられるとよいですね。
取材協力=日本補助犬協会、協力=東京都福祉局
※補助犬は、正式には「身体障害者補助犬」といいます。広報東京都こども版では分かりやすさを優先し、記事中では「補助犬」と表現しています。
▶日本補助犬協会
3種類(盲導犬・介助犬・聴導犬)の補助犬を育成・認定できる団体。補助犬のことを多くの人に知ってもらうために「もっと知って補助犬キャンペーン」や、企業・団体等への補助犬受け入れセミナーの実施など、補助犬を知ってもらうための活動を積極的に行っています。
❖東京インフォメーション 東京都の補助犬についての取り組み
必要な方に補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬)を提供しています。
※提供には条件があります。
補助犬の受け入れなどに関する苦情や相談を受け付けています。
「補助犬と一緒にレストランに入ろうとしたら断られてしまった」、「経営しているお店に補助犬ユーザーから来たいとの電話があったが、どのように補助犬を受け入れたらよいか」など、補助犬に関する相談を受け付けています。
補助犬や施設などでの補助犬の受け入れについて、より多くの都民の方に知ってもらうために、法律の解説や施設を管理している方に知っておいてほしいQ&Aをホームページに掲載したり、イベントを行ったりしています。また、厚生労働省が作ったリーフレットやステッカーを配っています。必要な人は都の担当へ問い合わせてください。
問い合わせ
東京都福祉局障害者施策推進部企画課
電話 03-5320-4147