2024年12月号
みんなが使いやすいデザインってなんだろう?身の回りから探してみよう
みなさんは、“みんなが使いやすい”デザインについて考えたことはありますか?
わたしたちの生活の中には、年齢や性別、国籍や文化の違い、体に障害があるかないか、左利きか右利きか、などの人それぞれの違いに関係なく、“みんなが使いやすくする”という目的でつくられた製品や空間があります。街の中や家の中には、どのような工夫されたデザインがあるでしょうか?
今回は、みなさんの身の回りにあるデザインについて考えてみましょう。
ユニバーサルデザインとバリアフリー
みなさんは、「ユニバーサルデザイン」という言葉を聞いたことがありますか?
「ユニバーサル」とは“みんなに共通する”という意味を持った言葉です。ユニバーサルデザインでは、すべての人が使いやすくなるように施設や環境などを設計します。
また、みなさんは「バリアフリー」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。こちらは、 すでにある“壁(バリア)”をなくそうとする考え方で、障害など困りごとを抱えている人が今ある施設や環境などを使いやすくなるようにする考えのことをいいます。
ユニバーサルデザインの空間について考えてみましょう。すべての人が使いやすくなるように、例えば階段ではなく、はじめから段差なくフラットに入れるつくりにしたり、幅が広くゆるやかで手すりのついたスロープを設置したりします。このような場所が、高齢者はもちろん、車いすを使っている人も、みんなが使いやすいデザインの空間ですね。これがユニバーサルデザインです。
車いすを使っている人は階段を使うことができません。また、高齢者などつえをついた人は、階段を使いにくいと感じるでしょう。すでにある階段の段差という壁(バリア)をなるべく減らすために、スロープを設置したり、手すりを設置したりします。そうすれば、車いすの方も高齢者の方も、以前より利用しやすくなりますね。これがバリアフリーを取り入れたデザインです。
みんなが使いやすいデザインー街の中ー
みなさんのまわりにはどのようなユニバーサルデザインやバリアフリーを取り入れたデザインがあるのか、街の中を探してみましょう。
🚉 鉄道の駅
❖駅の出入り口
まずは駅の出入り口を見てみましょう。駅に上がる方法が、エレベーター、エスカレーター、二重手すりのついた階段と複数あり、自分に合った方法を選ぶことができます。
エレベーターを使えば、車いすを使っている人や足の不自由な人が地上から移動しやすくなりますし、ベビーカーを押している人も使えますね。 エレベーターを使わない人は、待ち時間の少ないエスカレーターや階段も使えます。二重手すりがついていると、自分にちょうどいい高さを選んでつかまれますね。
❖きっぷ売り場
つぎに、きっぷ売り場を見てください。
券売機は、車いすや背の低いこどもの手が届いています。この高さだと、みんなが操作しやすいですね。
タッチパネル式の画面は、英語のほかさまざまな国の言葉を選んで、表示できるようになっています。日本語が分からない人でも使えます。
❖路線の案内表示
路線情報を示す案内表示はどうでしょう。
駅名には路線名のアルファベットと駅の数字が割りふられ、路線が色分けされて、わかりやすく表示されています
❖改札口
続いて改札口です。
幅が広くなっている改札があり、車いすに乗っている人やベビーカーも通りやすいようになっています。
交通系ICカードを改札にかざすと「ピッ」と音が鳴るので、タッチできたことがすぐにわかるだけでなく、目が見えない・見えにくい人も使いやすいつくりになっています。
❖ホーム
ホームの中はどうでしょうか。
ホームドアが設置されているので、目が見えない・見えにくい人も線路に落ちる心配がありません。
浅草線・三田線・新宿線・大江戸線の都営地下鉄4線(全106駅)では、今年(2024年)ホームドアの設置が完了しました。これらの路線では転落件数がゼロとなり、安全なホームづくりが進んだことが分かります。
🚃 電車
電車の中にも工夫されたデザインが多くあります。
❖フリースペースなど
東京都では、都営地下鉄の各車両に、車いすやベビーカーを利用する人などが使いやすいようフリースペースを設置しています。
一部の車両には「子育て応援スペース」も設置し、小さなこども連れの人が気がねなく乗れるようにしています。また、子育て応援スペースは、高齢者や車いすを使っている人なども使うことができます。もしフリースペースや子育て応援スペースが必要な人が乗ってきた時は、場所をゆずるようにしましょう。
❖つり革や手すり
都営地下鉄の車両をよく見ると、つり革の長さがバラバラになっています。身長が低くても手が届くように工夫されていますね。また、手すりもいろいろな高さに設置されています。
🚉 駅の構内
❖案内表示
駅や大きな施設などでは、どんな場所なのか絵や記号で示した案内表示がたくさんあります。
絵はピクトグラムといって、日本語が分からない人でも、ひと目でどんな場所がどちらの方向にあるのかすぐ分かります。
よく見かける「非常口」の表示も国際的に統一されたピクトグラムです。
❖トイレ
駅や公共の施設ではトイレにも工夫があります。
車いすが入れるように広いスペースになっていて、立ったり座ったりするときにつかめる手すりがあります。人を感知して自動的に開閉するフタがついているところもあります。
手を蛇口に近づけると自動的に水が出る仕組みも、手に障害がある人や力の弱い人でも、蛇口をさわらずに手を洗えます。だれにとっても清潔ですね。
❖新しいお札
駅員のいる窓口には、精算をしている人がいますね。7月から使われるようになった新しいお札はどうでしょうか。
インキを高く盛り上げる特殊な印刷方法(凹版印刷)で、お札の種類ごとに異なる配置でざらざらとした「識別マーク」を入れてあるので、目の見えない・見えにくい人も使いやすいデザインになっています。
実は、新しい千円札と一万円札の「1」の形が違うことも知っていますか?これもユニバーサルデザインのひとつで、見分けがつきやすいように工夫されているのです。
みんなが使いやすいデザインー家の中ー
つづいて、街から目をうつして、家の中を探してみましょう。
❖シャンプーやリンスのボトル
シャンプーやリンスのボトルを見てみましょう。
シャンプーの容器には、横にでこぼことした線が何本も入っていることに気が付きましたか?でもリンスにはでこぼこがありません。さわっただけで、シャンプーなのかリンスなのか区別がつくようになっています。シャンプー中に目を閉じたままでも間違えず使えるのはもちろん、目が見えない・見えにくい人も使いやすいデザインになっています。
❖部屋の敷居
部屋と部屋の境目である敷居。
敷居が高いと、つまずいてけがをしたり、車いすだと通りづらくなったりします。敷居をできるだけ低くしたり、なめらかにすることも、ユニバーサルデザインを活かした環境づくりの一例です。
❖照明のスイッチ
照明のスイッチが大きいと、力を入れずに簡単に電気をつけたり消したりできますね。電気を消した暗闇でもスイッチの場所がわかるように、小さなLEDが光るタイプもあります。
❖道具
ふだん使う道具にもさまざまなユニバーサルデザインを取り入れたものがあります。
文房具には、利き手が右左に関係なく使えるはさみやカッターナイフ、左利きでも使いやすい定規があります。
料理道具には、こちらも利き手の左右に関係なく使えるよう取っ手の位置が真ん中にあるおたまや、左利きでも使いやすいように取っ手が上についた急須などがあります。
❖文字の書体
実は文字の書体にもユニバーサルデザインがあります。より多くの人が間違えにくく、はっきりしていて読みやすい考え方で開発された文字で、これをUD(ユニバーサルデザイン)フォントといいます。学校で使う教科書でも使われていて、今みなさんが読んでいる「広報東京都こども版」の記事も、UDフォントを使っています。
みんなが使いやすいデザインー都庁の中ー
さまざまな方が訪れる東京都庁は、みなさんが気持ちよく安心して使えるように、設備を整えています。その一部をご紹介します。
❖案内板
白と黒ではっきりと見やすく、必要な情報がすぐに分かるように工夫されています。言語も英語や中国語(簡体字、繫体字)、韓国語で書かれ、日本語がわからない人にも理解できるようにしてあります。
❖案内コーナー
だれもが利用しやすいように、手話や筆談での対応もしています。また、声を聞き取りやすくするためのスピーカーも設置されています。
また、耳が聞こえない・聞こえにくい人がスマートフォンやタブレットを使って、画面越しの手話通訳者を経由して、リアルタイムでコミュニケーションが取れる仕組みを導入しています。
あなたが考える“みんなが使いやすい”デザインは?
このようにユニバーサルデザインは、街や乗り物、家や学校の中など身の回りのさまざまなところで取り入れるよう進められています。
特定のだれかのためではなく、すべての人が使いやすいように考えられたユニバーサルデザインは、ここで紹介したほかにもたくさんあります。あなたがふだん使っているものでも、実はほかの人には使いにくいものがあるかもしれません。みなさんもユニバーサルデザインでないものを見つけたら、どうすれば使いやすくできるのかを考えてみたり、どうすれば困っている人を助けることができるのかを考えてみましょう。あなたのアイディアで、“みんなが使いやすい”をデザインできるかもしれませんよ。
取材協力=東京都福祉局、財務局、交通局