2025年4月号
デフリンピックが東京にやってくる!大注目のデフバレー・中田美緒選手インタビュー

東京2025デフリンピック(第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025)が11月、東京で開催されます。デフリンピックとはデフ+オリンピックのこと。デフ(Deaf)とは、英語で「耳がきこえない」という意味です。デフリンピックは国際的な「きこえない・きこえにくい人のためのオリンピック」なのです。
さまざまな競技がある中で、デフバレーボール日本女子チームは、2001年にイタリアのローマ、2017年にトルコのサムスンで開催されたデフリンピックで金メダルに輝き、2024年、沖縄で開かれたデフバレーボール世界選手権でも優勝。今回も活躍が期待されています。チームの中心メンバーである中田美緒選手に、自身二度目の金メダルをめざす東京2025デフリンピックへの意気込みやみなさんへのメッセージをうかがいました。

初めて日本で開催!デフリンピック
デフリンピックは、耳がきこえない、きこえにくいスポーツ選手たちのための国際スポーツ大会です。障害がある人の国際スポーツ大会としてはパラリンピックがありますが、デフリンピックの方が早く始まった歴史があり、パラリンピックには、耳がきこえない・きこえにくい人の競技はありません。

デフリンピックは「国際ろう者※スポーツ委員会」が主催し、4年に1度開かれます。第1回は、1924(大正13)年にフランスのパリで開催されました。東京2025デフリンピックは、100周年の記念となる大会で、日本で開催されるのは初めてです。
※ろう者…耳がきこえない・きこえにくい人の意味
11月15日(土)~11月26日(水)の12日間にわたって開催される東京2025デフリンピックには、70~80の国や地域から選手約3,000人が参加する予定です。陸上、バスケットボール、サッカー、卓球、水泳、柔道、レスリングなど21競技が、おもに東京都内でくり広げられます。
東京2025デフリンピックメダルデザインは、全国の小学生、中学生、高校生のみなさんの投票により『みんなで羽ばたく』となりました。表面は折り鶴のデザインで”大きく羽ばたいていくこと”を願い、縁起がよいとされている日本の伝統的な模様を使っています。裏面はいくつもの線がまじりあうデザインで“世界の人とのつながり”を表しています。

デフバレーって?大注目の中田選手にインタビュー
中田美緒選手はデフリンピックでの活躍が期待されているデフバレーボール日本女子チームの注目選手で、ふだんから手話を使って話しています。デフバレーボールとは、耳がきこえない・きこえにくい人によるバレーボールのこと。チームメイトの声、審判の笛の音、ボールをはじく音などがきこえない、きこえにくい選手がプレーをします。
東京2025デフリンピックにかける思いや、みなさんに知ってほしいことについて、話をうかがいました。

中学1年でバレーボールと出会い、15歳でデフバレーボール女子日本代表に選ばれる。日本の、そして世界のデフバレーボール界を代表する選手
――バレーボールを始めたきっかけを教えてください。
もともとはバレーボールではなく、小学1年から中学1年の途中までサッカーをしていました。小学校は、地元(神奈川県)の普通の小学校に通い、耳がきこえる友達といっしょにプレーをしていました。
中学でもそうしたいと思っていたのですが、入学前に授業を見学してみたら、先生は黒板に書きながら、生徒に背中を向けて話していました。わたしは顔を見れば、口の動きでだいたいわかるのですが、背中を向けられると、何を話しているのかわかりません。


これでは中学校3年間がんばっていけるのか、自信が持てませんでした。耳がきこえない人のための「ろう学校」に体験入学してみると、先生は、わたしと目を合わせて、手話言語で話してくれました。こっちの方が、わたしにとってはいいなと思い、ろう学校に入りました。
ただ、ろう学校にはサッカー部がなかったので、姉や母がやっていたバレーボールを選びました。
サッカーもあきらめきれず、地域のクラブチームに入って続けようと思いました。けれども、試合や練習の間、みんな走りながら声をかけ合っているのに、きこえないわたしは目で見るだけ。みんなが知っている情報をわたしだけが知ることができず、うまくプレーができなくなりました。そのため、大好きだったサッカーが、楽しくなくなってしまったのです。結局、中学1年生の途中で、サッカーをやめました。

仲間と通じ合えた瞬間
中学2年の時に、神奈川県内の有望な中学生たちを集めた選抜合宿に参加したことをきっかけに、バレーボールの楽しさにのめり込んでいったという中田選手。高校では、バレーボールの強豪校に入りたいと考えたものの、やはり授業のスピードが心配で入学をあきらめ、ろう学校の高等部に進むことにしました。その後、あこがれのバレーボール部があった東海大学に進学し、耳がきこえる人たちと一緒にプレーをするようになりました。
―東海大学では、ほかの部員たちとうまくコミュニケーションがとれましたか?
部員は60人くらいいて、耳がきこえないのはわたしだけでした。入部するとすぐに他校との試合が始まるので、みんなに自分の耳がきこえないことを話す機会がありませんでした。やはり、練習でコミュニケーションをうまくとることができず、1か月もしないうちに「辞めたい」と思うようになりました。

そのときにデフバレーの監督に相談したら、「聴覚障害について部員たちに話しましたか」と聞かれました。聴覚障害は、目で見ただけではわかりません。自分からみんなに話した方がいいよ、と。
大学のバレー部の監督に相談してみると、「聴覚障害のことはよく知らないので、ぜひみんなに話してほしい」と言われました。そこでみんなに時間をもらって、聴覚障害とデフバレーの話をしっかり伝えることができました。それをきっかけに、部員たちが手話言語を覚えてくれたり、わたしの前に立って顔を見て話してくれたり、少しずつコミュニケーションをとれるようになったんです。

公式試合に出場したのは少しだけですが、4年生のときには、みんなわたしが出すサインをしっかり見て、プレーしてくれるようになりました。勇気を出して伝えたことが、大きなきっかけになりました。

―一般のバレーとデフバレーは、どんなところに違いがあるのでしょうか?
試合としてのルールは基本的に同じです。ただ、審判は笛を吹くなどして合図をしますが、デフバレーでは、選手たちがきこえないので、ネットを揺らすなどして合図します。

プレーの違いでは、デフバレーの選手たちは、声をかけあってもきこえないので、一瞬の情報を共有することが難しいという点があります。普通のバレーなら、とっさに「前!」とか「後ろ!」とか指示しながらプレーできますが、デフバレーでは声の指示はきこえません。だから、事前に、こういう場合はこのように動く、と入念に話し合っておくことが大切になります。

💡デフリンピックの競技を知ろう !
デフアスリートの競技は、ランプやフラッグなどを使って選手が“目で見てわかる”ように工夫されています。「TOKYO FORWARD 2025」では、個人競技と団体競技の合図の工夫を紹介。チェックしてみよう!
開催目前!東京2025デフリンピック
高校1年生のときから、デフバレーの国際大会に出るようになった中田選手。2022年にブラジルで開催されたデフリンピックでは、コロナ禍のため、途中棄権というくやしい思いをしたといいます。
その後で、東京開催が決まり、ブラジルでの悔しさを東京でぶつけたい、もういちど金メダルをとりたい、と強く願うようになりました。東京2025デフリンピックにかける強い思いを聞きました。

―11月にはいよいよデフリンピック東京大会です。
パラリンピックはだいぶ知られるようになっていますが、デフリンピックのことも、東京を舞台にもっと多くの人に知ってもらいたいと思います。
デフスポーツにはどんなものがあるのか、興味をもってほしいですね。わたしたちデフバレーチームの目標はもちろん金メダル。たくさんの人からの応援が大きな力になります。バレーボールは、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で開催される予定です。こどもからお年寄りまで、いろんな人たちに応援していただけるとうれしいです。
―小学生へのメッセージをお願いします。
デフリンピックの観戦を通して、ぜひ聴覚障害のことを知ってほしい。わたしは、会話をするときは手話言語がメインですが、なかには手話言語を使わない人もいます。補聴器をつけて会話をする人もいます。口の動きを見て理解する人、書いてコミュニケーションをとる筆談をする人…ひとくちに聴覚障害といっても、いろいろな人がいて、それぞれ違います。そういうことをぜひ理解してほしいです。

もし、耳がきこえない・きこえにくい人と会ったら、簡単な手話言語でもうれしい。手話言語がわからなくても大きく口を開いて話すなどさまざまなコミュニケーションの方法があるので、困っていそうな人を見かけたら、恥ずかしがらずにコミュニケーションをとってみてください。

そしてみなさん。ぜひ会場に来て、たくさん応援してください。そして声に出しての応援もうれしいのですが、ぜひ「サインエール」という目で見る応援を覚えてください。みなさんの気持ちが直接伝わってきて、わたしたちはもっとうれしいです。
👉サインエールはこちらからチェック!
デフリンピックには、バレーボールをはじめ、さまざまな競技があります。みなさんもいろんな競技を実際に見て、デフアスリートたちの輝く姿、輝く目も見てほしい。わたしも、金メダルをとって、みなさんにありがとうと伝えられるようにがんばりたいと思います。

デフリンピックを応援しよう!
わたしたちはふだん、あまり意識せずに音を聞いています。たとえば足音を聞いてどの方向から人が近づいてきているのか、ホームに入ってくる電車の音、遠くに聞こえる救急車の音、家電から聞こえるお知らせ音…音は情報をとらえる大切な感覚の一つです。
デフアスリートは音がきこえない・きこえにくいかわりに、競技中は「見る力」を研ぎすませます。それはどれほどの集中力なのでしょうか。静かなコートでくり広げられる熱戦や、交わされる選手同士の視線…みなさんも、会場で迫力のあるプレーを観戦してみませんか。
会場での競技観戦は、無料です。そして、東京都は学校単位で6万人のこどもたちを観戦に招待します。みなさんの応援は、デフアスリートの力になります。
ぜひ会場で選手の活躍を応援しましょう!みなさんのご来場をお待ちしています。
取材協力=手話言語通訳・中田碧さん、日本デフバレーボール協会、東京都生活文化スポーツ局(令和7年4月1日から東京都スポーツ推進本部)
👉東京2025デフリンピックのマスコットキャラクターをご紹介!
東京2025デフリンピックのマスコットキャラクターを務めるのは、都のスポーツ推進大使でもある「ゆりーと」。大会メインカラーである桜色と、大会エンブレムがデザインされたTシャツを着て、みなさんと一緒に大会を盛り上げます!

ゆりーとは、各自治体などのキャラクターが参加する「東京2025デフリンピック応援隊」の先頭に立って大会広報や気運醸成を行うほか、大会運営においても活躍していきます。競技でのアスリートの活躍はもちろんのこと、キャラクターの活躍も、ぜひ楽しみにしていてくださいね。
ゆりーとや応援隊の詳細はこちらから

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